おもしろい。ミドリに期待していたような曲も、全くそうでないものも含め、アルバムとしておもしろさを感じさせる「shinsekai」。斬新なシングルだった「swing」は収録されてはいないが、あの楽曲以降正統な進化を辿っている作品である。
割と整っていた前作から比べてもさらにすっきりとし、無闇な叫びも減っている。原動力ともいえる負のパワーも、決してなくなっているわけでははないが、内に向かって突き抜けていくのではなく、外へと突き抜けていくような感覚のほうが強い。 汚れのなかにあるからこそ際立つ美しさを持っていたミドリの音楽に、単純に美しい部分を切り取ったような楽曲が増えた。一発勝負に賭けていたような以前とは違いアレンジも凝っている。制服からの脱却に続き後藤まりこが素顔を見せたジャケット含め、アートワークでも変化が見て取れる。 さらに「春メロ」では初めて鍵盤のハジメがメインボーカルを務めているのも新たな試み。元々の原曲はインストのソロ楽曲として発表されてもいたが、こういうのもなかなか新鮮だった。
と、まさに新世界を提示するような作品になっている。問答無用でノックアウトするようなインディーズの頃の作風ではないが、並んだ楽曲のラインアップを見れば、これはこれで相当カオスである。いや、或る意味現在のミドリの楽器編成でやれる正しい音楽のかたちではないだろうか。この路線で行くのかどうかまだ定かではないが、この世界でも悪くないと個人的には思う。どうだろうか。
だがやはり「凡庸VS茫洋」の叫びには心底ゾクッとした。ミドリにこれを求めてしまう人にとっては、今作はちと辛いかもしれないな。
ミドリ時代を知らないのでフラットにアルバムを聴けました。バンドサウンドも素晴らしくお気に入りになりました。
ミドリが解散してからの約一年半、後藤まりこと音楽との完全な一対一。それは私たちが一番に望み、 後藤自身が一番恐れていたことだと思う。しかし、後藤まりこは、まだ音楽を心から愛していたということを、 今回のアルバムから手に取るように分かるだろう。彼女のiPhoneの中に閉じ込められていたという、純粋に、 後藤の中から生まれたメロディーが、私たちの元に届く事が嬉しい。 ミドリの時代から後藤まりこを知る人の心情は、驚愕、愕然、唖然、そんなところではないだろうか。 だが今回のアルバムを、是非、「ミドリの後藤まりこ」と重ね合わせずに、「ニューカマー『後藤まりこ』」として聴いて欲しい。 音楽という接着剤を使って、ひとつになろうとする、後藤まりこの歌はどれも透き通るようだ。 【無理だと知ってる でもひとつになろう】 後藤まりこの新章が、このアルバムから始まる。
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