この小説には、重要な登場人物として3人の女性が出てきます。3人ともとても魅力的な女性達です。特に、阿弥陀堂を守っている「おうめ婆さん」が一番魅力的です。「おうめ婆さん」の語る言葉やしぐさにとても心安らぐのです。年をとって、この様になれたらいいなと思います。
久しぶりに穏やかな気持ちで読める、いい小説に出会えたと思います。
南木佳士さんの自選短篇集であり、南木ファンにとってはお馴染みの作品ばかりなのだろうが、「草すべり」しか読んだことがない自分にとっては新鮮だった。 普段、ミステリや冒険小説などを読むことが多いので、最初、物語としてのテンポの違いに戸惑った。 しかし、読んでいるうちに、じわじわと染みてくるような私小説の深さに触れ、夏目漱石や森鴎外などいわゆる古典的名作ばかり読んでいた学生時代を思い出した。 私小説が身に染みるのは、年をとった証拠だろうか。
映画館で観てからDVDが出るのを待ち望んでいました。 やっと出ましたね。 人によって感じ方はさまざまだと思いますが、とにかく私はどういうわけか最初から最後まで泣き通しでした。 苦しいくらい切なくて、美しい、そして希望が感じられる、そんな映画です。 この「阿弥陀堂」の世界にどっぷりはまってしまいました。 役者がすごい。 中でも北林谷栄は、最高でした。 この人の演技が見れただけでも幸せです。 心に病を抱えた樋口可南子が、この田舎に越してきて自分を取り戻していく過程、寺尾聡のそれを優しく支える無言の演技・・・とにかく傑作です。 たくさん日本の映画は見ましたが、私はこの映画が一番です。 愛してます。
医者に向く人の3条件を他社の著書から引用し「丈夫な体、優しい心、まずまずの頭」と書いてある。私は医者ではないがわかる気がする。他の仕事でも当てはまるような? 単文エッセイなので読みやすいです。
この本は、著者が文壇に初めて認められた作品、「破水」の続編なのだそうだ。その「破水」は読んでいなかったが、この本を読んで大体状況はわかった。主人公は還暦を迎えた女医である。未婚の母ということと、文中で述べられる、子供がうつ病になりかけたときの対処の仕方を見て、主人公の生き様や性格が理解できた。こういう人が身近に実際に居たとしたら、夫婦になることには一考を要するが、友人としては認められる人だと思った。
内容は、女医の一日を追ったものである。かつての同僚であり、指導医でもあった地域医療に取り組む先輩医師の病状を、その下で指導を受けていた研修医が書き述べたものを、女医に見てもらう(患者=女医の先輩医師が女医に見せたらどうか、と研修医に提案した)、といういささか複雑な背景ではあるが(筋書きは複雑ではない)、作者はそういう形で「破水」の主人公をもう一度登場させたかったのだろう。
作者は女医に日常業務の一環としてその病歴を読ませながら、即ち、そうすることで読者に事実を知らせて、それに関連して女医自身や先輩医師の過去について語る、という話になっている。
おもしろいと思ったのは、その病状の背景に実際の医学参考書を使っていることである。例えば、先輩医師の父親が結核で亡くなったことの記述には、参考文献・『結核 Up to Date』(国立療養所東京病院 毛利昌史・倉島篤行編集、南江堂)、という具合である。その他にも、『虫垂炎の診断指針(医師用)』(佐久総合病院)、なんていうのもある。女医も「破水」の頃から成長したが、作者も医者として脈々と経歴を積んできている、ということが、医学参考書を使って記述していることから、覗われるような感じに捉われるのだった。
読みながら何回も思ったが、うまい文章である。これといって変化のない平凡な話ではあるが、淡々と流れるように書き述べているその技術には円熟味を感じた。
ゆったりとした気分になって気持ちが落ち着いた、というのが読後感である。
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