資料として面白いのかもしれないけど、要するに単なる推薦状、みたいな。
徹底的に耽美なイメージ映像をひたすら紡いでいった作品なので、ストーリーの繋がりや筋を理屈で追おうとしても不可能です。綺麗だけどアクが強い映像がずっと続くので、2時間を越えるこの作品に疲れてしまう人もいるでしょう。僕も少しそういったことを感じたところが、星1つ減点の理由です。
でも、清順映画は写真で見ると分かるように、各カットの絵としての素晴らしさが際立っているのですが、そういった一つ一つの完璧なカットの洪水に身を委ねると、この作品に描かれた狂気や死の世界に入り込んでしまうような、ドラッギーな感覚を味わえます。(特に原田芳雄演じる中迫の死の直前の映像はクラクラした。)
こういう映画の作り方をする人は少なくなりましたが、今でも国内外にいます。でも、ここまで決まった完成度の作品を残した人はそういません。例えば、ダリの絵を今の時代に見ても古くないように、いつの時代に見ても絶対に古くならない前衛映画だと思います。
笑いあり、妖異あり、戦後の日本の風土、列車事情の活写がありと、絶対にお勧めの一冊です。 笑いが、著者の人格が醸し出す天然自然のお笑いですから、最近鼻につく人工甘味料的な不自然さがなく、極めて喉越しの良い仕上がりになっております。 また怪異な出来事を書かせたら、日本文学史上屈指の手練ですから、その点もご心配なく。 卓越した文章に笑いながら、旅を楽しむように、読了できますよ。
『ツィゴイネルワイゼン』… 初見は20年以上前だろうか?。当時洋画ばかり観ていた私が意識して邦画を観た始めての映画だったように思う。その時のメディアはVHS。 筋はちっともわからないのに不思議なオーラの酔わされ、以来LD、DVD、とメディアを変えて楽しんできた。 (残念なことに銀幕では観たことないのだ…涙) それがとうとうブルーレイである…。感慨深い。 当然購入し、鑑賞。やはり三本とももの凄く楽しい。幸せである…。 わたしにとってこの映画は‘原点’とでもいえるもので、いまでも冷静に分析したりできない。…ひたすら好きである。 (もちろん『陽炎座』も『夢ニ』も同様) といったわけで、作品自体の評価は★10個でも足りない。
さて、 せっかくのブルーレイ。やはり画質の向上が気になるので早速手持ちの『デラックス版』三本と比較。 まず『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』は画質向上がはっきりと感じられる。 服、表情、皮膚の質感等々、細部がかなり見えており違いははっきり。画面のガタツキや小さなゴミ等もかなり取り除かれ良い感じである。薄暗いシーンでは特に違いが明らかで、例えば『ツィゴイネルワイゼン』終盤に小稲が数回訪問するシーン(素晴らしいライティング・撮影・美術による素晴らしいシーン)などは『デラックス版』では暗い箇所がただつぶれた感じだったのが、本ディスクでは独得の空気感に満たされ幽玄なシーンとしての見所を増している。コレを観てしまうと『デラックス版』の画質には戻りにくい。 …また、若干色味も違う感じである。(これに関してはデラックス版のやや青が強い色味のほうが私は好みであるが) 『夢二』については色味に大きな変化はないが、やはり細部はよく見えている。 色味に関しては今回のHDリマスターの監修が故永塚一栄氏ではなく藤澤順一氏(『夢二』『カポネ大いに泣く』のカメラ)であることも影響しているかもしれない。(但し、氏は『ツィゴイネルワイゼン』『陽炎座』両作品にも永塚氏の撮影助手として関わっている) といったわけで、画質の改善と色味の変化は確認できたが、何しろ古い映画であるので劇的な変化とまではいかない。 (この変化はブルーレイによる改善なのかHDリマスターによる改善なのか正直よくわからない)
ソフトの仕様については、簡素そのもの。 封入物はポストカード三枚程度。しっかりとした造り・デザインの外箱はなかなか良好なのだが、各ソフトのジャケットデザインは(…基本的には悪くないのだが)正直に言って「また、この写真かぁ」といった感じだ。新しいデザインを採用して欲しかった。 映像特典も予告編と静止画ギャラリー程度。他の方が指摘されてるようにチョッと寂しい。 (『デラックス版』は特典が豊富だし裏話満載の製作荒戸源次郎によるコメンタリーが楽しい。画質の差はあっても手放せない) そんなわけで★を一つ減らしました。
といったわけで、商品としては若干詰めが甘いと思いますが、画質の改善等は明らかですし、さらに清順監督作初のブルーレイでもある訳でファンの方にはお勧めできるのではないでしょうか。
「間抜けは単なる観念でもなく、空想でもない。現在目のあたりに実在するんだね。どうも驚いた」 (『間抜けの実在に関する文献』より)
カバー絵は、かの芥川龍之介の筆によるものである。 鼻毛がぐるぐる巻いている、シュールでユニークな百けん先生の似顔絵は、まさにこの本の中身を絶妙に表現している。
お気に入りは、「蜻蛉玉」(日本銀行に押し入ろうとする空想の理由がばかばかしすぎてすごい)、「間抜けの実在に関する文献」(世界がすべてたぬきに見えてくる)。
大真面目な顔をして、難しい言葉を使い、ひねくれたことやものすごく馬鹿なことを言う。 だだをこねる子どもが、知恵という武器をそなえて大きくなってしまったような、そんな雰囲気とおかしさは、たまらなく癖になる。
ああ、エッセイとはこういうものをいうのだと、しみじみ感心させられた本。
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