80年代のJPOPを語るのに絶対的な存在である林哲司。世間に彼の名声が聞こえ始めた「真夜中のドア」「September」から菊地桃子への曲の提供といった全盛時代を経て今にいたる仕事が、インタービューも交えながら紹介されている。特に仕事仲間から見た林哲司という側面からの記事も多く、萩田光雄など他の本では出てこないようなレビューが興味深い。
夫(寺尾聡)に先立たれた専業主婦(風吹ジュン)の、女としての自立をえがいた秀作。夫の愛人役の三田佳子をはじめ、出演陣の豪華な顔ぶれを見ているとシネカノンがかなりの力を入れて世に送り出した作品であることが伺える。興行的には今一歩だったような気もするが、いつものキムチ臭さは抜け、純和風のテイストに仕上がっている点に好感がもてる。
実際に映画を見るとわかるのだが、登場人物たちの微妙な<心のゆれ>を捉えた繊細な演出が秀逸である。役者のアドリブではなく、阪本監督が一つ一つ細かい指示をベテラン俳優たちに与えたであろう工夫の跡が随所に発見できる面白さをそなえた映画でもある。
世間知らずの専業主婦が、相続のいざこざからビジネスホテルに雲隠れしてしまうくだりなどは、危なかしくてとても見ていられないものがある。強い強いと揶揄されがちな平成のオバサンではあるが、それはあくまでも家の中だけのこと。一歩外に出れば、こんなにもか弱く同情を禁じえないのは、やはり阪本監督の繊細な演出が成功しているなによりの証拠であろう。
作曲家として多くのアーティストに楽曲を提供してきた著者が実績、経験に基づき一般の人にも作曲を楽しんでもらおうという趣旨の本。作曲はそんなに難しいものではないというメッセージ自体には共感しますが、やはり音楽に関するバックグラウンドがないと、入っていけないというのも事実。分かりやすい解説を心がけているのは伝わってくるのですが、本当の初心者には理解不能なのではないでしょうか。もっと簡単な本で勉強してからこの本でも遅くないような気がします。
ナイン・ストーリーズ は作曲家としての林哲司の絶頂期に制作されたアルバムだ。全曲がシングルカットできそうな高水準の作品だ。確かにボーカルに難はあるが、それがアーティストの味というものだろう。 キャッチーなサビが印象的な悲しみがいっぱい、打ち込みのビートが心地よい左胸の星座、極上のバラードのキャッチミー、その他。いつまでも色あせない作品たちだ。
「ウナ・セラ・ディ東京」「旅の宿」「亜麻色の髪の乙女」などなど誰でも経験してきた名曲が著者の体験を通して、林さん自身のクリエイターの立場からの一定の見識を保ちながら、次々と紹介されています。自然にわたし自身の体験が甦ってきて楽しく拝読できました。音楽を友とする普通のヒトの感性と、長年作曲家としてご活躍されてきた筆者のプロの感性とが合わさって、とてもバランスのとれた名曲紹介になっていますね。良い本をありがとうございました。
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