年末に亡くなられた森田芳光監督。亡くなられた直後に、BS・CS波では追悼で 「の・ようなもの」「家族ゲーム」が放送されていた。この激動の時世にテレビ サイズで放送される家族ゲームは未だに“生きつづけている映画”だと思えた。 それは松田優作の怪演技もさること、独特の世界における人間模様がある意味 馬鹿馬鹿しく“笑劇”のリズムは素晴らしい映画!! この映画の独特のセンスは 2012年になっても色褪せていない。 私的には深津絵里の「ハル」や、脚本だけ 担当した「免許がない!」辺りも好きなエンタテイメント作品として位置づける。
本書は巻頭から撮影風景のスチール写真を織り交ぜ、監督のデビュー作からの作品 解説や映画出演者や製作スタッフのインタビューなどの構成になっており読み応え があります。こういう奇抜な演出発想で、万人が興味をもつテーマで映画を撮られ る監督は“職人”の印象大だ。
間違いなく名作だ。 有名な「家族ゲーム」、「バカヤロー」で表現された「森田ism」は、本作品(35mm デビュー作)にて全て表現されている。後期(例えば「刑法39条」等)の作品では全く現れていない「映画の魅力」を遺憾なく発揮している。 例えば「家族ゲーム」で表現される車のおもちゃのシーン、あるいはあまりに有名な最後のケチャップのシーン。また、存在そのものが「違和」であった戸川純の棺桶に関するセリフ。格好付けて言えば「日常生活の異化」とでもいうべきシーン。初期森田にこの「日常生活の異化」を扱わせれば右に出るものはいないだろう。 本作の中でも、あまりに擦れ違うことで成立していく会話の積み重ねがあまりに見事。他でもない「映画」という表現形式を採用することの「意味」を痛感させてくれる作品だ。あまりに凄い「日本映画の可能性」を感じるためにも必見だと思う。
まだ“パソコン通信”て言ってた頃のお話です。 コンピューターの普及や進歩には目を見張るものがあるとつくづく思います。 二人の打つメールが画面そのままに写されるシーンは不思議な間(ま)を感じました。観客が一文字一文字目で追う作業。ハイテク、デジタル、そんな言葉で語られるコンピューターを使ったコミュニケーション、それでもやはりデジタル化することはできない人の心のアナログ感をこんな風に映像であらわすのはスゴイと思いました。 ハルとほしが新幹線の通過する中でお互いをビデオで撮影しようとする場面は、高速化がとまらない私たちの生活を象徴しながら二人にとっては、あの映像くらいゆっくりを過ぎてく瞬間なのかもしれないな…印象深いシーンです。
夏目漱石の「それから」の世界をを忠実に再現している。公開当時高校生だったと思うが、映画館へ見に行き、胸に深く残った。ビデオ化されたら絶対に買おうと思っていた。この映画に対する評価をほとんど聞いたことがないが、高く評価されるべきと思う。私の中では、日本映画のベスト5に入る。 代助、美千代の思いの象徴として何度も百合の花が出てくるか、その香りが画面から匂いたつようだ。音楽も印象的ですばらしい。 藤谷美和子が薄幸な明治の女性を演じ、とても美しい。小林薫も実にうまい。
世の中がポップカルチャーに移り変わろうとしていた1980年代に突如として出現し、映画を通して常に時代を席巻し続けた天才映画監督・森田芳光!
現在では北野武や園子温のように異業種や自主制作出身の映画監督が当たり前のように存在しているが、当時はまだ既存の撮影所システム(助監督から監督に昇進)でしか映画監督になれなかった時代にその外部から8ミリフィルムを引提げて映画界の門戸をこじ開けて映画監督になった森田芳光はまさに時代の申し子であり、その先駆けともいえる開拓者(パイオニア)であった。
本書は森田がプロの映画監督に転身するきっかけとなった8ミリフィルム『ライブイン茅ヶ崎』の時代から縁の深い関係であった『ぴあ』による森田芳光の追悼集である。 先に出版された『映画作家 森田芳光の世界』が映画関係者や批評家たちによってまとめられた既存の追悼本である事に対し、本書は森田映画もしくは森田芳光を誰よりも愛する人たちによって作られたファンの会合誌のようなものであり、全篇フルカラーでその端々から森田映画並びに森田芳光への惜しみない愛情が伝わる究極の追悼本(トリビュート)である。
織田裕二『椿三十郎』、役所広司、黒木瞳『失楽園』、松山ケンイチ、瑛太『僕達急行 A列車で行こう』、桃井かおり、薬師丸ひろ子『メイン・テーマ』(松田優作『家族ゲーム』も含む)を始めとする豪華出演陣(石田ゆり子『悲しい色やねん』、堤真一、鈴木京香『39-刑法第三十九条-』、深津絵里、内野聖陽『(ハル)』、北川景子、塚地武雅『間宮兄弟』といった当時まだ無名もしくは新人であった俳優たちを起用する森田監督の先見の明にも驚かされる)によるインタビュー、原正人(ヘラルド・エース創立者)、角川歴彦(角川ホールディングス会長)、黒澤満(セントラル・アーツ社長)といった大御所から根岸吉太郎、岩井俊二、行定勲など日本映画を代表する監督たち及び豪華スタッフ陣よるコメント(何よりも感心させられるのは付録として森田監督と携わってきた裏方や劇場スタッフに至るまでコメントを収録)が寄せられている事から森田芳光という日本映画界におけるかけがえのない人物の存在感を物語っている。
他にも『未来の想い出 Last Christmas』〈1992〉における原作者・藤子・F・不二雄先生との挿話(モリタ監督=ドラえもん論)、永六輔氏による遺作となった『僕達急行 A列車で行こう』への寄稿、山藤章二、夏目房之介、わたせせいぞう『それから』、玖保キリコ『(ハル)』、大友克洋『ライブイン茅ヶ崎』、藤子不二雄A『椿三十郎』によるイラスト付トリビュートは必見! 私自身、それほど森田作品が思い入れがあるワケではないが、本書の内容の充実さと細かい箇所にまで行き届いている編集スタッフの仕事ぶりに賛辞を送りたい。一人の人物を取り上げるトリビュート本としては最高の作品です。 できれば、文藝別冊の向こうを張ってぴあからもこうした人物シリーズを出して欲しい。 さしずめ、松田優作、深作欣二、菅原文太、三池崇史…といった辺りを希望します。
追記…CD付録・出演者によるモリタ作品脚本朗読『森田の音』も必聴!
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