この作品はやり込めるか、それとも投げ出してしまうか。人によって大きな差が出そうなタイプの本です。 主人公は指定されたページの選択肢を選び、さらに選択肢で指定されたページへ飛び、さらにそこでも選択をして別のページへ飛んでいく・・・ 読み方、選び方次第で読む人ごとに何通りもの違ったストーリーが展開されていくわけで、発売当時は画期的な小説でした。バッドエンディングももちろん用意されています。しかし、ページを飛ぶという行為がいちいち次のページを探さなければならないという行為に他ならないので、ゲーム版RPGと違い、これがなかなか面倒なことなのです。ストーリー自体は岡嶋二人らしい機知に富んだものなのですが、そういう面倒な側面があるので、そのストーリーにはまり込まないとこのRPG小説を途中で投げ出してしまうという危険性があります。 本という体裁でRPGをやるという事の難しさを教えてくれる一冊です。 ストーリーそのものは秀逸なので一度トライされてみてはいかがでしょう?
昭和43年、半導体メーカー社長の息子である生駒慎吾が誘拐された。
のちに慎吾は無事解放されたが、その時の身代金として会社の虎の子の 資金を使ったために、慎吾の父の会社は大手メーカーに吸収されてしまう。
20年後、ある事件をきっかけに亡き父が遺した手記を読んだ慎吾は、過去 の誘拐事件の際に、父を嵌めた人物がいたことを見抜く。そして、慎吾は、 父の会社を吸収したメーカー社長の孫を誘拐する計画を始動させる……。
本作は、志を果たすことができず、無念の死を遂げた父のために仇討ちをする息子の 物語なのですが、そこから連想されるようなべたつく情念とか重苦しい愛憎を慎吾が 吐露することはありません。
思うに慎吾は、自分より遥かに強大な相手に対し、単に危害を加えて復讐すれば 満足なのではなく、あくまでフェアに、そして誰にも頼ることなく独力で自らの計画 を成し遂げたかったのではないでしょうか。
そうした行為が大手会社に屈せざるを得なかった父の 無念を晴らすことになると信じていたのだと思います。
結末で慎吾は、かつて自分を誘拐した犯人と対峙し、互いの罪を告発し合う のですが、その後で二人の間に流れる空気がえも云われぬ余韻を残します。
さて、最後にミステリ的勘所について一言。
本作最大のキモは、身代金であるダイヤ奪取のハウダニットなのですが、 そのための伏線は、第三章の冒頭、慎吾の職場を描写している場面で、 さりげなく提示されています。お見逃しなきよう。
短編が9本入っていて、岡嶋二人作品フアンにはサービス満点の一冊です。既刊の「記憶された殺人」に、表題作を含めた文庫未収録作品を加えて再編集されています。
舞台設定、登場人物、道具、意外性、トリック全てAランクです。こんな作品がもっと増えるといい。
触覚、嗅覚、味覚まで実際に体験できるヴァーチャルリアリティ・システム『クライン2』の製作に関わることになった彰彦。テストプレイヤーとして参加していくが…。 あまり作品のネタバレはしたくないのだが、内容としては崩れ行く自我、自己が描かれている。岡嶋二人名義ではあるが、実質的には(現PN)井上夢人が一人で書いていたらしいが、確かにこのテーマ自体は、『メドゥサ、鏡をごらん』であるとか、『プラスティック』であるとかに通ずるものがある。既に、井上夢人の作風というものが出来上がっていた、ということをこの作品を読むと感じることができる。 この作品が書かれたのが89年。「ゲームブック」という単語であるとかに時代を感じる部分がないわけではないのだが、文章自体に古臭さを感じることはない。むしろ、まだファミコンソフトが最新のゲーム機であったようなこの時代に、実体験できるゲーム機、というアイデアで作品が描かれた先見性に脱帽せざるを得ない。 現在でも十分に楽しめる作品だと思う。
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