読後に胸に残るこの裏切られ感は何だろう……?
それは期待を裏切られた、というよりも、天国っぽい所に来たと思っていたら、地獄に落ちていたような……
たしか元々地獄にはそういう所があった。 美女が樹上にいて微笑みかけていて、登ろうとすると、枝葉が刃になっていて、樹上に登ると体は傷だらけになっていて、今度は樹下で美女が微笑みかけているという……
読後感は悪い。 しかし、つまらない作品だと思わなかったのは、様々に張り巡らされた巧妙な作者の仕掛けのためだと思う。
性格を単純に一面化したキャラクターは出て来ない。
すっきりしない読後感はタップリ。 しかし、作者によって、丁寧に、念入りに、読者は地獄へ引きずり込まれることだろう。
代表作の『鈴木先生』を単純で一面的な“いい先生”で描かなかったように、この作品集でも人間を暗い部分、明るい部分も含めて、多面的に描いている。
作者の「バッドエンドではない“はず”です」という言葉を、この作者らしい、いたづら心に溢れたものに感じた。
挑戦的な姿勢にかけては妥協しない、安易で安っぽいものを出してこない、この作者の挑発的な姿勢には好感を持っている。
子ども相手になんでそんな恐ろしい話をするの?と問い詰めたくなるような昔話をするお婆ちゃんの持つ恐さのようなものを、この作者に感じるのは私だけではないと思う。
しかし、読後には毒抜きが欲しくなる作品集でもある。
収録作は以下の通りです。 第一章:怪談 1.現役刑事が見た心霊捜査の実態(漫画実話ナックルズ2005年11月号) 2.霊能力という病い(漫画実話ナックルズ2006年11月号) 3.ふたりの子供(バンブーコミックス「日本列島 恐怖!心霊地帯」 竹書房) 4.千葉県K市K公園で響く闇夜の雄叫び(バンブーコミックス「死霊の騒ぐ夜 稲川淳二の恐怖かたり」 竹書房)
第二章:都市伝説。 5.牛肉食べた幼児に陰毛(漫画ナックルズ撃 VOL.8) 6.童謡に潜む飢饉と人肉食(漫画ナックルズ撃 VOL.4) 7.死んだ夫は誰だったか?(漫画実話ナックルズ2005年5月号) 8.ふさぎこんだ犬(漫画ミブルイ VOL.2)
第三章:秘境と因習 9.謎の邪教集団 クロの真相(漫画実話ナックルズ2007年8月号) 10.狐筋の一族(漫画実話ナックルズ2006年8月号) 11.おっとい嫁じょ(漫画実話ナックルズ2006年1月号) 12.実在したレイプ村(漫画実話ナックルズ2006年6月号)
第四章:死と暴力 13.銀総会回顧録(漫画実話ナックルズ2006年2月号) 14.自殺村の真相(漫画実話ナックルズ2005年12月号) 15.死刑囚と獄中結婚(漫画実話ナックルズ2006年6月号) 16.連続射殺魔 死刑囚の最期(漫画実話ナックルズ2011年10月号)
武富健治を語る1[宮本大人] 武富健治を語る2[山田文太] 武富健治を語る3[村上和巳] 著者による作品解説 あとがき [小池壮彦]
武富氏の主にコンビニで売られている劇画コミック誌に掲載された短編を編んだ本です。 通常は読み捨てで、同系統のコミック誌に時々再録される以外は殆ど単行本化される見込みのない事が多いので、今回の単行本化は快哉を叫んでしまいました。 氏のハイテンションかつ時に歪な人物造形は人間の業が強く出るこの傾向の作品にも相性が良く、稲川淳二さんの怪談の漫画化でも最高級に怖い「3」や極道や死刑囚を主役にした13,15,16は非常に読み応えがありました。 それ以外でも日本のどろりとした因習を描いた表題作を含む短編も強烈な印象を残します。
当時単行本化の見込みも無い状態でも手抜きをしない熱い武富氏の姿勢が救済された本作、ミリオン出版社にも感謝致します。 コンビニ売り実話誌には本ミリオン出版でもコアマガジン社も、カルト的な漫画家諸氏(宮西計三氏や駕籠真太郎氏、時に早見純氏、そして実話劇画の現帝王・伊賀和洋氏)が名を連ねており、今回の武富氏の様に単独作家は無理としても、アンソロジー等で単行本化される事を祈っております。 濃厚な漫画をお好みな方には文句無しのお薦めです。
簡単に言うと、横溝正史などでおなじみの「閉鎖的な村での殺人事件」ものです。
1巻では本格的な事件は発生せず、 村の特異性や登場人物の顔見せの意味合いが強いです。 この巻だけでいい・悪いは決められません。
とはいえ、鈴木先生でおなじみのテイストは健在。 時折見せるキャラクターのぞっとさせる表情。 テキストが多いのに不思議と読ませる言い回し。
今後も楽しみです。
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