陰謀説(例えば300人委員会)の中にフリーメイソンという秘密結社がでてきて、彼等が世界を裏から操っているという。フリーメイソンに興味を持ったのは陰謀説がきっかけであったが、最近公開されている映画「ナショナルトレジャー(テンプル騎士団隠した秘宝を捜す映画)」にフリーメイソンが出てくる。フリーメイソンの名前が大衆娯楽映画に抵抗感なく出てくることが陰謀説中の秘密結社のイメージとは異なっており、これが、今回、フリーメイソンについて書かれたちゃんとした本を読むきっかけになった。 本書によると、フリーメイソンは18世紀の西欧思想を具現化した一つの団体であり、主義主張を持たない上流社会のサロン的な集まりであった。古代の密儀宗教に由来する神秘主義と西欧近代の啓蒙主義・理神論・科学主義が融合したものであり、様々な思想を飲み込む中空の受け皿であった。また、フリーメンソンは「道徳法」に従うことが求められ、徳性の涵養による人格の完成、すなわち「真実で善良な人間」になることが、最終目標になっている。
フリーメンソン自体は、主義主張を持たない中立な社交クラブであったが、そのメンバーには時代を担う指導者、思想家、科学者などが多く含まれ、アメリカの建国、フランス革命の実現には多くのフリーメンソンがその表舞台において関わっていたのは驚きであった。
本書は、大学の先生(フリーメンソンの研究者)が書いたものであり、多くの文献、資料をもとに、とてもニュートラルに(というより好意的に)書かれている。しかしながら、これは著者の立場、研究手法の限界かも知れない。
実際、アメリカ合衆国国璽に見られるフリーメンソンの象徴、アメリカの議事堂の礎石を置く儀式がフリーメンソンのロッジと提携して行われた事実、初代大統領のワシントンを記念するワシントン記念塔にもフリーメンソンの象徴が関係していることを考えると、フリーメンソンである個人やその精神だけでなく、フリーメンソンと言う団体がアメリカ合衆国の歴史に関与していたと考えるのが自然では無いだろうか。これは(資料等に示された)建て前と現実のギャップではないだろうか。
本書を読むことにより、フリーメンソンが怪し気な秘密結社では無く、歴史上の優れた人物を輩出し、アメリカの建国の表舞台においても大きな貢献をしてきた団体であることが良く理解できる。