高校3年の終わり頃、100%受験生になっていたあの頃、私にとってのバイブルだったP.バラカンの「ポッパーズMTV」にJ.ジャームッシュが出演したことがありました。「自分の好きな映画を撮れなかったら電気工事でもやっていた方がましさ」と言い切るその自信。流れた『ダウン・バイ・ロー』の断片。素晴らしかった。自分は大学合格という当面のせち辛い目標に全生活を消費消耗していましたが、「でも本当はこういう世界を生きたいんだ」と届かぬ思いを抱いていた18歳でした。
そして運も悪く浪人生活を余儀なくされていた夏のある日、やっとミニシアターでこの映画を見ることが叶ったのです。やっぱり素晴らしかった。そして凄く救われた気がして、図らずも映画館の暗闇でぼろぼろ涙が出て止まらなくなったのです。尖ってこだわりに満ちて他人を傷つけて生きても何も残らない。でもベニーニのように、陽気に快活に、そして後ろを振り向かず人を愛して生きていればそれだけで良いではないか。後はひたすら流れに任せて流れていくだけ…。それは受験戦争でぼろぼろになった私の気持ちの「糧」となる、必要な「精神の滋養食」でした。
今でも忙しくて孤独で気持ちがすさんでいる時にふとこの映画を見てみます。変わらず素晴らしい。バラバラだった3人の気持ちが‘I Scream…’で一つになる爽快さ。モノクロで撮られた川下りの美しさ。愛情たっぷりにチークダンスをする二人…。男達が地に足をつけて人生の新たな展望に乗り込んでいくその力の抜け方・自在さ。もう最高です。語り尽くせぬ思いがありますが今回はここまで。
〈追伸〉ある時ふと気付きました。「もしや最後に出てくる女性って…」そして調べるとやっぱり彼女はN.ブラスキ! 『ライフ・イズ・ビューティフル』でお母さん役をやり、実生活でもベニーニの妻である彼女はすでにこの作品でも競演していたのです。二人の後の映画と実人生を彷彿とさせて感慨深いです。
若き日の屈辱のドサ周りから始まり、流行とは無縁に自分のアートを貫き通し成功していく、
トム・ウェイツに「男の理想」を強く感じました。
元恋人のリッキー・リー・ジョーンズ、ブルース・ス
プリングスティーン、ボブ・ディラン
など同年代の彼と関わるミュージシャンや音楽業界、洋楽好きには興味深い内容も書いてあります。
本書の特徴として、彼の発言はすべて太字になっているのですが、これがまたイイんです!!
独特のリズミカルで、ちゃめっ気たっぷりな毒舌は、筋の通った職人を連想させて面白い。
名言たっぷりなトム・ウェイツ ワールドを堪能できます。