日本人作家のホラー小説好きな人ならば、読んで損は無いでしょう。作家のバックグラウンドや嗜好が垣間見える部分もあり興味深いです。巻末に付いているホラー小説の年表は、なかなか貴重なデータベースだと思います。これを眺めているだけで次に読みたい本が見つかるかもしれません。
朝松健氏は現在のライトノベルズの興隆の先鞭を築いたパイオニアで、挿絵画家の技量の影響を受けない数少ない文章で勝負できる作家である。 室町時代の持つ独特の雰囲気を伝える伝奇小説は故山田風太郎氏の室町少年倶楽部など数少ない。 一休宗純を今までの既成観念にとらわれない新しい解釈で描いた伝奇小説群の最新作で、初めて朝松健氏の作品を読む方にもお勧めです。
奇譚ではなく鬼譚。
最初の方の段階でクトゥルー神話を知っている人には、何が起きているかおぼろげながら見当がつく様になっている辺りは心憎い構成。都市伝説を効果的に利用している辺りは、超自然に関して常に流行を意識して取り込んでいたラヴクラフトのやり方にも似ている。
英訳もされた「クン・ヤンの女王」で言及されている著者の創造したヨス=トラゴンの名がここでも登場し、しかもユゴスで崇拝され夜刀浦の神でもあるらしい。更にヨス=トラゴンに仕える存在らしい電磁波生命体のイルエヰックの名前も登場。しかし只でさえ発音し辛い名前が余計に発音しにくい名前に・・・父が若い頃、一度だけ聞いた事があるそうだが、”ヰ”の音なんて発音出来る人、滅多に居ないだろう。
「恐怖まだ終わらず」のラストも美事。
それにしてもヒロインがおそらく「深き者」の血を引いているのだろうが、結局、彼女が変貌するまでは描かれなかった。それとも続編か夜刀浦を舞台にした別作品で、描かれるのだろうか。
このシリーズもこれで既に52冊目になります。
この本のは9作品が収められていますが、時代の変化なのか、所謂「推理小説」らしさの強い作品は、「貧者の軍隊」(石持浅海)「二つの鍵」(三雲岳斗)の2作品です。中でも「二つの鍵」は、ダ・ヴィンチを探偵役に徐々に犯人を絞ってゆくという従来からの形式を採っており、論理的でなかなか楽しめます。
その他の7作品もそれぞれ独特の味があり、大いに楽しめます。引きこもりを扱った「黄昏時に鬼たちは」(山口雅也)は、現代の問題点を良く捉えており、ここまで来てしまったのかという思いもあって、衝撃的な作品でした。
寺社奉行の配下としてあやかしと戦うチームの活躍を描く、実写化して特撮時代劇・・・にしてみて欲しいと想うシリーズもの。 出撃シーンはかなり現代的だし、会話にも東宝の怪獣ものや大映の妖怪ものが出て来るし、著者がかなり楽しんで書いている。六人目のメンバーとなる子狸が可愛い。一匹欲しいな。 大団円と想わせておいて、ちゃんと次巻への「引き」もある辺りが巧い。 しかし、この感じだと、次巻かその次巻辺りでクトゥルー神話になりそうな気がする。
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