ゲストやホストと同世代です。70年代やその前史とも言える60年代後半から続くロックについては、ラジオやレコードを通してリアルタイムで音楽を追いかけていました。
本書は日本のロックを創ってきた側の証言ですから、リスナーとは違う視点からの情報も多く、知っているはずのロックの流れもまた新鮮に読み通しました。紹介されているレコードなどの音源も聴こえてはこないのですが、どこを説明しているか分かるのは嬉しかったです。
日本のロックを語っているわけですが、大きな影響を受けた海の向こうのロックについても相当なページを割いて語っていました。あの時代の音楽環境や雰囲気を語るには避けて通れませんので。
井上貴子さんが「50年代生まれは『ロック世代』」と位置づけてくれました。ビートルズからGSへ、ニューロックからハードロックへ、そしてプログレへと我々は通過儀礼のように世界中を席巻した音楽を追い求め、自分へと吸収していったものです。
それらの音楽を、本書は実に多彩に、あらゆるロックから解き明かしています。語り手が日本を代表するミュージャンですから当然でしょうが、ロックの聴き手としても素敵なリスナーだったことを知るエピソードが満載でした。
本当に貴重な証言が詰まっていました。同時代の仲間だけでなく、次世代のロックを愛好する人達に是非読んでほしい本となっています。あの時代の空気まで感じ取れるリアルなコメントが詰まっていますので、本ではありますが、ロックを体感できそうな気がする書でした。
巻末には「日本ロック史年表1952〜1984」も所収してあります。
去年のCD-BOX「無冠の帝王」と同じくテイチクからの発売なので、今回もまた「問題のある言葉」が消されているだろうと覚悟していたが、今回はそれに加えて、「全曲ライブ」のDVD化でありながら、丸ごとカットされている曲があって、「全曲」になっていない。タイトルに「from」とついているのはその所為だろうか?
4日間に及ぶこのライブでは、アンコールも含めて118曲が演奏されたが(付属のブックレットで「108曲」となっているのは、アンコールを除いた曲数)、今回のDVDに収録されているのは104曲。
3日目では、「ひと粒の種になって」「舌出し天使」がカット。
4日目では、アンコールの4曲が収録されている(他の3日間は、アンコールは収録されていない)一方で、「世界革命戦争宣言」「赤軍兵士の詩」「彼女は革命家」「戦争しか知らない子供たち」「セクトブギウギ」、そして何と「さようなら世界夫人よ」もカット。
付属のブックレットでは「諸々の事情により収録不能」とだけ説明されているが、特に「赤軍兵士の詩」は、14分に及ぶ凄まじい演奏だったというから、実に惜しまれる。
この「赤軍兵士の詩」等を収録して発売禁止になっていたファーストアルバムが、10年前にフライング・パブリッシャーズから発売されたときには、「時代が動いた」と思ったものだが、時代が逆戻りしてしまったらしい。
ただ、歌詞に問題があるとも思えない(実際、今までカットも無しに収録されていた)曲までもがカットされている理由は分からない。
「世界夫人」なんかは、あまりに定番過ぎるのでカットされたのだろうか?
パッケージには「一部効果音が入っている箇所もあります」との断り書きがあるが、これはまさか、「問題のある言葉」を消している「ゴーッ」というノイズのことだろうか?
トップアイドルが覚醒剤で捕まって「アブリでやった」なんて供述している時代に、「***」と歌うこともできないのだろうか。
実際に「***」で捕まったアーティストが、何事も無かったかの様に復帰して、愛だの恋だのとキレイごとを歌っていることの方が余程恐ろしいことではないか。
百歩譲って、テレビやラジオの放送でカットされる言葉があるのは仕方ないとしても、1万円以上出して買うパッケージソフトで、音声が途切れ、曲が丸ごとカットされているというのは、部品が揃っていない「不良品」と言われても仕方ない。
予約特典をつけるより、演奏された曲を(アンコールも)そのまま収録するのが、「全曲ライブ」のDVDとしてやるべきことだろう。
勿論、ライブ盤だから全曲収録されているとは限らなくて、「抜粋」というレベルのライブ盤もあるが、このライブの場合、「全曲」ということに意味がある。4日間をそれぞれDVD1枚ずつに振り分けた4枚組であれば、全曲収録を期待するのが普通だろう。
そんな「不良品」とはいえ、頭脳警察の楽曲の多彩さを改めて実感するとともに、デビュー当時に戻ったかの様な迫力に圧倒される。
デビュー当時の曲を今演っても違和感が無く、声も全く衰えていないのが驚異的。(流石に4日とも、途中に休憩を挟んでいるが)
特に歌詞については、決まり文句を並べ替えているだけの今時の自称アーティストどもとは世界が違う。
カットされた曲があるとはいえ、頭脳警察の歴史を一気に振り返る、104曲というボリュームは圧倒的。
去年のCD-BOXに入っていたDVDが、1枚で軽く収まる分量を2枚に分けた、意味不明の仕様だったのとは大違い。
それだけに、これが全曲揃った完全版だったらどれだけのものになっていたかと惜しまれる。
画質がいまひとつなこともあって、敢えて星3つ。
個人的に、フラワー・トラヴェリン・バンドの「Make Up」の映像に期待していたんですが、
収録されていたのはYouTubeにて公開の某映像にスタジオ音源を被せただけのものでした。
また、その他の多くの演奏シーンの映像も既出のものばかりで、まったく肩すかしです。
70年代当時の日本のロックの映像が1つのアーカイヴとして集約されたことは意義深いとは思うし、
そうした資料的なものとしてはそれなりに良い作品かもしれません。
が、1つの映画作品として観た場合はちっとも面白くもないでしょう。
なにしろ、内田裕也さんや近田春夫さんといった人達へのインタビューの合間に、
昔の映像が時系列もばらばらにダラダラ挟まっているだけの薄っぺらな構成でして、
映画のはじまりと終わりを内田裕也さんへのインタビューで纏めて、
どうにか全体を締めているだけの映画ですから。
インタビューをもうちょっと幅広く、細かくやって、
当時のレコード会社のディレクターだとか、ロックから別の方向へと流れていった人達とか、
そういう人達の証言も取り込んでくれていたら、奥行きのある見応えのある映画になったのでは。
例えばその後のYMOのメンバーがいたエイプリル・フールの人達だとか、
モップスから名プロデューサーへ転身を遂げた星勝さんとか、
ヒーリング・ミュージックみたいなものをやるようになった喜多郎さんとか、
話を訊くべき人は、いっぱいいたでしょう?
これでは「ロック誕生」というよりは、「内田裕也誕生」ですよ。
内田裕也さん、大好きだからこれでもいいんだけど(笑)。
とにかく初めて聞いた時の衝撃は凄かったです。当時の私としては難しい語句やタイトル..日本赤軍や世界革命..TVの中の出来事だった媒体が 音楽として出会った衝撃..その後SEX PISTOLSらを聞いても頭脳警察を超える衝撃は無いですね。それだけの衝撃作です。
伝説で語られるバンド 頭脳警察は70年代、90年代の復活(1年限り)、そして21世紀以降の現在と3つの活動時期に分けることが出来る。この本は「PANTA FUN CLUB」会報誌の編集長であった人物が、頭脳警察にかかわった人物たち+頭脳警察のPANTAとTOSHIにインタビューをし、作り上げた本だ。「過激!」や「パンクの元祖」という一言で括られがちなバンドだが、僕も含め彼らの音楽のファンはそういった部分に違和感を感じているはずだ。著者もそういった違和感を大きく持っていたらしく、レコーディングエンジニア、音楽評論家、イベンターなどにそういった部分を踏まえながら、頭脳警察体験と当時の時代の空気、それを経過した今を問い詰めていく。PANTAとTOSHIのインタビューはそういった結果を受けてのものなので、ちょっと薄くも感じるのだが、関係者による証言は当時の時代、彼らから見た頭脳警察の位置づけなどが見えてきて非常に興味深い。こういった部分だけどもあの時代というもの、頭脳警察、当時のロックの立ち位置というものが分かってくる(この関係者のインタビューに際し、著者は相当な想いを持ち、整理して望んでいるはずだ)。2500円という価格は高いと感じるかもしれないが、頭脳警察や当時のロックに関心のある方には十二分に価値内容を持っている。最近、やっとこの時代のロックがこういった形で冷静に描かれるようになってきた。伝説なんか吹っ飛ばすべきだと常々思っているので、こういった本の発刊は本当にうれしい。そして頭脳警察は現在進行中であることもお忘れなく。
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