刑事の妻が暴力団幹部と逃げるという衝撃的なストーリー。暴力で全てのかたをつけようと決意し警察を辞め狂犬となった男(原田芳雄)と暴力団幹部(高橋悦史)と逃げる刑事の妻(大谷直子)のある意味悲劇的な、演歌的な(決してスタイリッシュではない)ラブストーリーをハードボイルドタッチで描く。
刑事の妻が一瞬の気の迷いで暴力団幹部との逃避行に絡み、どんどん落ちていく様が悲哀に満ちており、その姿を眺めながら復讐の炎を燃やす原田芳雄の姿もまた悲しい。
10代の頃にTVで予告編を観て漁船で逃げる高橋悦史と大谷直子を見て生々しい男と女の姿が強烈に印象に残った。
原作が藤本義一でストーリーはしっかりしているものの、北海道から鹿児島までの復讐の旅のなかで高橋悦史に繋がる人物と出会うがこれが偶然なのか計画的なのかがわからず、この点のリアリティが欠如している。また、清水章吾演じる同僚の刑事が最後まで原田芳雄を野放しにしている(むしろ助けている)展開も現実的ではない。
とはいえ、大谷直子の文字通り体を張った演技も見ものだし、70年代の実録風な描写で、悲劇的で哀愁に満ちた展開も味わい深いと思う。
最初スポーツ新聞に載ってある「日日日日」というコラムで藤本義一さんに興味を持ち本を購入しました。年配向けかなぁと思ったら、ギャグ漫画を読むぐらいに内容が面白かったです。本は飽きると読むペースが遅くなりだらだらと読みますが、この本は最後まで飽きなかった。
一味違う文書教室である。特に写本の薦めに、「子守唄」は面白い。
子守唄は、無駄を省いて唄にしている。いい短文は、読み手の心にドスンと響いてくる。「文章のリズムと内容が短い一行の中に要約されている。」と著者もいう。そこで「竹田の子守唄」を写本してみた。 守りもいやがる 盆からさきにゃ 雪もちらつくし 子も泣くし 七字、五字のリズムが、体にジンワリ響いてくる。 泣く子がにくい 雪がうらめし 里が恋しい
削って削って、まだ削る。実践で味わえる文書教室である。
これは、ベストセラーになった『遺書』と『松本』が1冊になって文庫化されたものなのでお得な感じがします。 お笑いに対して常に正気で努力家な姿勢は現在でも変わらないが、本書でも全編を通じて存分に書かれています。実力や才能が存分に満ちあふれている唯一無二の天才芸人であることは間違いないです。 『遺書』と『松本』は、すべて松本人志が毎週魂を込めて週刊誌に書き続けた渾身の力作です。内容はかなり斬新で面白く、テンポやキレも抜群に良いです。 2012年でダウンタウンは結成30周年ですが、この時から既にお笑いを極め頂点に立っていると思います。
藤本義一は2012年に亡くなられましたが、それから暫く時が経ち、やっと傑作集が河出文庫から出ることになりました。本書には、1:生きいそぎの記 2:鬼の詩 3:贋芸人抄 4:下座地獄 5:師匠・川島雄三を語る の5編が収録されています。 1、5:藤本さんは大学在学中から脚本家、戯曲作家としてそのキャリアをスタートさせますが、川島監督(私も大好きです)に師事し、その脚本を手伝い、大きな影響を受けます。後年、自身、川島は母港のような存在と述べ、川島への尊敬、思慕の念を明らかにしています。この時の体験を基にして書かれた小説が1で2は講演の記録ですが、この2作は表裏一体の関係といえます。川島監督は素晴らしい作品をつくりますが、その性格は相当ひねくれていて、常人には理解しがたい理不尽な性格の人でした。それは、弁慶と牛若の論争、その後のエピソードによく現れています。なお、このエピソードは1と2ではお互いの立場が変わっていて、小説風に上手く脚色されていることがよくわかります。その他、腐った鯨肉、小津安二郎のエピソード 等必読です! 2:直木賞受賞作です。実在していた二代目米喬をモデルにした小説、難しい仏教書を読む、暗く面白くない芸人が、露という伴侶を得て、さあこれからという時にその露を失います。その後、狂気とも言ってていい芸に突き進んでいきますが、その末は・・・ 3:風采の上がらない下足番の善六が、芸人に憧れ漫才師の由丸二弟子入りします。嫁を師匠に差し出したり、病気の師匠の身代わりで舞台に立ちますが・・・ 4:家庭の事情で芝居小屋の女中に奉公に出たつるが、三味線に興味を持ち春江に師事するようになります。そして、春江の忠告を無視し、下座で三味線を弾くようになりますが・・・ 2、3、4 は、上方芸人をモデルにした、藤本さんの真骨頂の芸人小説ですが、その凄まじい生き方を描いて今でも古びていません。惜しいのは1です。藤本さんは、川島監督論を書き下ろす意向があったらしいですが、それも夢と終わりました。なお、他の作品も再読したくネットで調べましたが、殆どの作品が絶版、品切れです。野坂昭如、黒岩重吾、石川達三、結城昌治、青島幸夫・・・等の作家でも同じような状態です。出版社さん何とかなりませんか!!!
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