著者がこれまで頻繁に花粉調査を行ってきた東地中海地域では、時代が進むに伴なって、人々の信仰の対象が大地母神から天候神バアルへ、さらには一神教へとと移り変わってきたとのことだが、著者は詳細な花粉分析データを基に、気候の悪化・乾燥化が原因となって、大地母神が象徴する土地の豊饒性よりも、雨を降らせる天候神がより重視されるようになり、人々の信仰対象を変えていったのだと主張する。自然環境の変化が人間の精神生活にも大きな影響を与えるという、著者の指摘は大変うなずけるものだ。以前、国際日本文化研究センターで著者の講演を聞かせてもらったことがあるが、人間活動に起因する地球環境の激変によって、現代文明は21世紀中に崩壊するとの危機感が強く伝わってきて、著者の環境問題に対する真摯な態度に感銘を受けた。本書に詳しく書かれている、著者自身が森の文明に対する熱い思いから積極的に関わった、レバノン杉の保護活動については大きな拍手を贈りたい。
1991年発表の作品。珍しく外部作曲者としてERIC MARTINを採用して作られた5thアルバム。(ただし1曲目だけ。)
「The final countdown」から前作「Out of this world」までのPOPなイメージを、「HRバンド」として復権したいのであれば、なぜ"Break free"と"Yesterday's news"の2曲をボーナストラックとし、本編に入れなかったのか?甚だ疑問である。幸い日本盤には収められたが、この2曲があるのと無いのとでは作品としての意味が全く異なるだろう。特に"Yesterday's news"は特別な何かを持っている曲である。DEEP PURPLEスタイルを踏襲したこの曲はPOPなイメージを払拭するに絶好の曲であったはずだ。(MICのハモンド風キーボードソロは素晴らしい。歌詞も良し。)
この作品を例えるなら、不器用ながら縦へ、とにかく前へとゴールへ突き進むFWのJOHN NORUMに対し、交代出場した技巧派MFのKEEはサイドチェンジを繰り返しながら切り崩しを図り、ゴールに近づきシュートを打ちながらも、ポストに弾かれている。−オレは観客席で「惜しい!」と叫びながら膝を叩いた。
2007年8月にレバノンで上映された後、瞬く間に見るものを魅了し、様々な言語に訳され、40を超える国々で愛された。現在、最も有名なレバノン映画と言って過言ではない。これが、脚本、監督、主演を務めたナディーン・ラバキーが製作した初映画というのだから驚きだ。学生時代に大学のプロジェクトで製作し、高く評価されたというショートフィルムから10年以上も映画製作から遠ざかっていたラバキー。その才能が、埋もれることなく、こういった形で花開いたのは、映画界の幸運だと思う。
物語の舞台は、レバノンはベイルート。エステも行うビューティサロン(死語かもしれないが、この表現がよく似合う)を介して友情を暖めてきた5人の年代の違う女性たちの、キャラメルのように甘苦い生き方は、時に優しくコミカルに、時に哀しくメランコリーに紡がれ、ひとつの美しい物語に仕上がっている。
道ならぬ恋に苦しむ美貌のラヤル、婚約者や家族に自分の処女喪失が露見することを恐れる結婚間近のムスリム女性ナシリヌ、碧の黒髪を持つ美人女性客に心惹かれるリマ、老いのサインを拒絶する売れない女優ジャマル、姉の介護のために人生を犠牲にしてきた初老の自分に舞い降りた初恋に戸惑うローズ。物語の合間合間に出てくるキャラメル脱毛ワックス痛みに身震いしながら、登場人物全ての幸せを応援したくなる。
全ての女性にお勧めの一本だ。
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