インクレチン関連新薬のうち、DPP−4阻害剤が昨年12月に上梓され、早くも9ヶ月が経ちました。インクレチン(GLP-1、GIP)はβ細胞でのインスリン分泌の「増幅回路」である訳ですが、インクレチンが何故極めて短時間(血中半減期はたったの2分)で分解されてしまうのか、その生理学的意味は未だ解っていません。DPP-4酵素を阻害することによって、インクレチンを長時間血中に停滞させた場合、人体にどのような影響があるのか? そしてGIPとGLP-1はそれぞれどのような相互作用、調節機構をもっているのか? これもまだ解明されていません。これらのことが解明されないまま、大量のGLP-1を長期間投与して、人体に一体どのような影響があるのか? 臨床が先走りし過ぎでございます。
私はDPP−4(ジペプチジルペプチダーゼ-4)と言うpeptide分解酵素が大慌てでインクレチンを分解する理由は、インスリン過剰分泌はインスリンシグナル過剰につながり、ミトコンドリアを痛める事になるので、これを防御するための機構ではないかと考えています。さっと出して、さっと消す。ブースター掛けたら、さっさと切り離す。そうしないと酸化ストレスが過剰に増えてしまう。ミトコンドリアは大変でございます。生体にははチャンと防御機構が備わっているものです。それが進化でございます。
繰り返します。DPP-4という酵素は神経系、免疫系、内分泌系の様々な代謝過程にも存在しています。これらの系は消化器系に引き続いて発生分化して来たシステムなので、同じもの(ホルモン、酵素、伝達物質)を使っていても何の不思議も有りません。ですから、それらを全部阻害してしまって果たして良いものかどうなのか。従って、長期的に予期しない副作用の出現に充分気を付けなくてはなりません。 慌てて新しいものに飛び付かず、まずは食事療法=糖質制限でございますよ、皆様。
インクレチン関連新薬に興味のある糖尿病患者さんにお勧め致します。今のところ星は3つですが・・・。
糖尿病のインクレチン新薬に関する正確で詳細な本。
まず、HbA1c(へモグロビンエーワンシー)を下げるならば、
早期にインシュリンとの併用が許可されることが必要である。
DPP-4阻害薬についての概略が書かれており、分かりやすく読むことができた。
DPP-4阻害薬が今までの薬(SU薬、α-GI、BG薬、TZD、速効型インスリン分泌促進薬)などと機序が異なり、低血糖、体重増加などのリスクが少ないことが理解できた。私はプライマリケアの見地からcase reportを作ることが多いのであるが、専門外の私でも理解することができ、case report投稿の一助となった。
ただ願わくば、副作用についての記載をもっと具体的に述べていただいて、実際の投薬の切り替えなどプラクティカルなことを書いていただいていればよりありがたかったと思う。やはり血糖降下薬は注意深く使用しないと「危険」なお薬なので…。(専門の先生がたから見ると自明の内容だから割愛しているのかもしれませんが…)
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