女学校を舞台に少女たちの交渉、生活、成長が描かれるという、吉屋信子の典型的な少女小説。乙女な雰囲気がたっぷり堪能できます。 3人の少女を軸に描かれる設定になっていますが、結果的には3人のうちの2人ばかりにスポットライトが当たり、あとの一人ははじかれてしまった、というか物語中にうまく取り込めなかったようで、お話全体のバランス配分は今イチな印象を受けます。 嶽本野ばら氏の解説と訳注は単独として読むとなかなか面白いのですが、なにぶんにも「平成的」にくだけすぎているので、本文と照らし合わせながら読むとちょっと雰囲気くずれる…と感じることも。あと、若干ながら間違いもあるようです。“五間の家”の五間はサイズじゃなくて部屋数でしょうに、とか。
吉屋作品の中でも最も素晴らしいと言ってもいいであろう作品。 これを文庫化してくれたことに感謝です。 乙女であれば一度読んでおいてほしい。
タイトルがすごいが、吉屋信子の作品には処女という言葉が何度も出てくる。無粋で乱暴な男に散らされていない、清らかで穢れなく、女性本来の女性、として私は素直に処女という言葉を納得してしまった。女学校卒業後、専門学校に通う「心に要を欠いた」章子はそれまでの寮を出てYWAに部屋を借りる。寮が満員とのことで、得られたのは青いペンキで塗られたにわか作りの屋根裏部屋であった。初めて自分の部屋を持った章子の満足と恍惚と寂しさが多くの形容でこってりと書かれる。そして、目的を欠いた毎日の中で、同じ寮の綺麗な異端者を恋うる思いが次第に募ってくる。二十三歳の「若書き」ではあるかもしれないが、技術で操作されていないぶん苦悩はリアル。「自分のしたいことが見つからないが、周囲に言われるまま学校に通っている」という人には時代を超えて響くところがあるだろう。そして、女性を押しのけて我先に電車に乗り込む男たちの姿が与える失望は、現代も同じ。
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