みとせのりこさんの紡ぐ「言葉」が好きです。
ヨルオトヒョウホンが気に入って、それからこちらを聴きましたので、どうしても比較になってしまいますがご容赦ください。
まず、みとせさん自身が作詞していない曲も多く、全体にテンポが速くポップな雰囲気という印象があります。ヨルオトヒョウホンのようなすっと通った芯がなく、悪くいえばごちゃごちゃした感もありますが、それらのバラバラな方向へ向かおうとする曲群をみとせさんの透き通った歌声がきれいにまとめあげています。
むろん、上記の流れでこのアルバムに辿り着いた私を満足させてくれる「これぞ!」な曲もちゃんと含まれています。
ヨルオトがタイトルのまま深い闇と月の夜を思わせるアルバムであるのに対し、こちらは、やわらかな木漏れ日のような仕上がりになっていると思います。
星4つなのは、単に個人的な好みの問題です(笑)。こちらの雰囲気のほうが好きだ! と思えば問題なく星5つでしょう。
補足的に…
「蝉時雨」は、ヨルオトヒョウホンの同タイトルの曲とはアレンジ違いで、歌詞の細部も異なります(こちらのほうが先でしょうが)。
みとせのりこさんの艶めいた、あるいは甘ったるい、もしくはロリ声。シュバルツ・ナハト、黒い森と訳すか森の黒と訳すかは聴いてから考えよう。 と、毛穴がぞわぁっとするような早く大きなビブラート。フィドルの哀愁。民族音楽っぽくもあり、しかしポップス的ダイナミクスは保って。 2曲目のデュエットはやや冗長だけどバンドネオンの音がよい。 「ある午後の情景」はもっと評価されるべきタグを付けたくなる小品。短いしアコギだけだし...などといわずに、この名曲の短歌のような潔さに酔いませんか。
結論として、「買ってよかった」と言えます。この10分程度のCDを毎晩寝る前に聴くためだけに買っても損はしないと思います。
もともとティル・ナ・ノグのために買いましたが、他の曲にもはずれはないだろうとは考えてました。
1曲ごとに曲調が変わり、アルバム流し中に飽きることはないと思われます。
私自身これが初めて買うキルシェ作品ですが、他の作品の入手を考える内容です。非常に満足です。
みとせさんの魅力は何よりも、その壊れてしまいそうなまでに透き通った声にあると思います。まるで風鈴を弾いた時のような、高音かつブレの無い歌声は、曲調と相まって、聴いている人を幻想的な世界へと誘ってくれます。
お勧めの曲は「蝉時雨」「untitled crinema~オクターヴ・ワルツ~」「une plume d'hiver~冬の羽~」の三曲。
「蝉時雨」はギター・ドラムを中心に展開しますが、楽器の使い方が非常に巧く、独特。何回聴いても、何故この楽器の組み合わせでこんなにしっとりした曲が……と思ってしまいます。メロディ・サビ部分、どれも聴き所満載の仕上がりになっていて、特に勧めたい曲です。
「untitled crinema~オクターヴ・ワルツ~」は、まさに幻想的な一曲。少しダークでミステリアスな曲調と、みとせさんの音域の広さが存分に愉しめる、特徴的な一曲です。
「une plume d'hiver~冬の羽~」は、どこか儚げな一曲。 冬の街全体が季節に眠る中、何処かへ飛び立つのか、空を羽ばたく鳥に想いを寄せる――。そんな、叙情的な曲です。元々みとせさんの歌声はこういう儚げな曲が一番ふさわしいのかもしれません。
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