「誰にも言ってはいけないよ」 そのプレッシャーが、知ってしまった人の心に どんなに重くのしかかることか。 それが生死にかかわることなら、なおのこと。
鎌倉という舞台で、 すずちゃんを中心にとても密接な人間関係が交差している。 登場人物同士が、5巻に入って、またぐっと近づきあっている。 近いのに。近いから。 言いたくても、言えない。 言えたら、どんなに楽だろう。
一方で、言いたいことを言えよ。 言ってくれよ。 という思いに答えて、言えたことで、 またぐっと近づくゆうやとふうたの友達関係。 事情が変わってふうたに話せるようになったすずの、安心した笑顔に、 読んでいるこちらも気持ちがほっとしてしまう。
また、すずちゃんを産んだお母さんの気持ち。 自分は大切に思ってもらえていたんだ、 ということがわかった時の、つるーっと流れる涙と笑顔にも 読んでいて胸がきゅっとさせられてしまう。
苦しさ。切なさ。やるせなさ。ありがとうの気持ち。 忘れないよ、という思い。 きらきらと海の風に光りを浴びて輝く、細く、ゆれるような感情の糸を、 吉田秋生はなんと上手に表現することでしょう。 この人、すごい。 満足する読後感です。
個人的にこの手の話をかかせると、
もうホントに吉田秋生って「上手い」な――!!! って思います。
なんといっても「そこの空気」の書き方が絶妙に上手い。
この話も、鎌倉の町の海の湿気、山の影、小さくて細い路地、海沿いを走る電車、
そんな生活の空気感が絶妙。
そしてその中での「生活」の書き方がまたものすごくいい。
毎日起きて仕事してご飯たべて買い物して――の、そういう生活の中にこそある
普通であること、人を許すこと、忘れられないこと、好きになること、痛いこと、悲しいこと―――そんなことがもう、あまりにも的確にぐいっと入ってくるカンジがして、
弱ってるときに読んだら涙止まらないかもしれません。
すでに成人した三姉妹の住んでいる古い鎌倉の家に、腹違いの中学生の妹がやってくる……というのも、「生活」への変化なのかもしれません。
学生が話に絡んでくるのは、やっぱり若い子が話に絡んでくると、「動く」からかなー、と思います。最後の話の静けさは、なんだか懐かしくて痛ましい。
相変わらず丁寧に人を描いてるという印象。 この巻では、すずと風太の距離が近くなります。 最後のエピソードの誰とどんな食事をしたのかって 単身で食事をされる機会の多いと思われる現代人には 少し思いを巡らすいい機会だと思います。 味わい深い一冊です。
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