本書はフランス構造主義言語学を代表する言語学者の一人、バンヴェニストの著作を集めた論文集です。本書は大きく六部に分かれています。第一部では言語学の変遷を追い、構造主義言語学を言語学史の中に位置付けることを試みています。この部分ではアメリカ構造主義言語学のヨーロッパ構造主義言語学の違い、19世紀の比較言語学の意義、共時言語学の意義などが述べられ、言語学の流れを知る上で非常に有用です。第二部はコミュニケーションについてですが、そこではミツバチの八の字ダンスや精神分医と患者のやり取りなどさまざまなものを取り上げ、人間のコミュニケーションとは一体どのようなものであるのか洞察を深めています。第三部は「構造と分析」と名付けられています。このセクションではヨーロッパ構造主義言語学の分析手法がどのようなものであったかを知ることができます。この部分にはなかなか興味深い論文が収められています。第四部は統語論についてです。この部分にはバンヴェニストのあの有名なイストワールとディスクールの区別を行った論文(第13章)が収められています。第五部では語用論的な視点からの論文が集められています。語用論というとオクスフォードの日常言語学派を思い出しますが、オースティンのあの有名な本が出版される以前にバンヴェニストはこのような視点をもって言語を研究していたようです。ここでは主に人称という側面を使ってその語用論的な考察を行っており、いわゆる発語行為論とは異なっており、面白いと思います。なお、バンヴェニストがオースティンの論について考察している有名な論文もこの部分にあります。第六部では比較言語学が扱ってきた語彙の意味の考察を不十分とし、それを構造主義言語学の手法から捉えなおしています。なかなか読み応えがあります。 本書で最も面白いと思ったのは第一部、第三部、第五部でした。バンヴェニストの柔軟な言語観には驚かされます。とてもよい本だと思いました。
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