この本の長所
1、一部とはいえ、思慮を深めた終身刑囚が終身刑をどう考えているか、絶望的な状況の中でどう今後の人生を積極的に生きているか、終身刑が残酷であるというホンネ、などが明らかになっており、終身刑や人生を考えるヒントが満載なところ。
2、アメリカの刑務所の様子が垣間見えるところ(教育プログラムの充実、刑務所の外で仕事をする終身刑囚、など)
この本の短所
二、三を除いて、終身刑囚がどんな犯罪を起こしたかが明らかでないところ。
読者にも感情があるので、犯罪事実をもう少し詳しく知った上で(第一級(謀殺)、第二級(故殺)だけでは抽象的過ぎる)その感情に向き合って終身刑を考えたほうが有益だと思うから。名前は仮名でもいいから、概要ぐらいは書いて欲しかった。
結論
短所は結構重要だと思うので、星を1つ減らして、星4つ。しかし、いろいろなことを考察できる有益な本なので、ぜひご一読を。
「犯罪総数も凶悪犯罪も増加していない」と書けば、多くの人は嘘ではないかと思うのだろうが、犯罪白書を丹念に読み解き、被害者が通報した事件を全て認知件数としてあげ、ひったくりやカツアゲが稚拙化して強盗とカウントされ、昼夜・繁華街と住宅地の区別なく、ごく僅かだが犯罪に遭う確率があるようになり、一つの凶悪犯罪を長期間報道するようになった結果、治安に漠然と不安感を多くの人が持つようになったと推察される、と犯罪の実情から始まり、刑務所・死刑・無期囚を説明し、終身刑の矛盾、方向性を示した、新書ながら内容の濃い本。
無期囚は30年以上収監され続け終身刑同然だし、模範的受刑生活と出所後の生活見通しが立ち仮釈放に至ったとしても、ほぼ生涯保護司の監視下に置かれ、重大なトラブルや交通事犯でも無期懲役に逆戻る為、再犯率は1%であり、犯罪予備軍とまでは言い切れない。
終身刑を導入すると、現状のアメと鞭が効かず、アメを娑婆での貧困層より優遇せねばならなかったり、何より脱走防止のコスト増に繋がる。
また殺人事件加害者は出所後、家族ごと故郷を離れればならないケースが殆どで、永久追放され、四大死刑冤罪事件の一つである免田氏ですら地元では暮らせなかった程世間の目は刑事罰より厳しく、同時に炭鉱等出所者でも働ける職場の激減により、一般社会が出所者を受け入れる土壌が無くなり、一般的な出所者の再犯率を上げている。
以上のような事から、終身刑導入よりも再犯者を受け入れ、被害者や遺族を加害者共に谷底へ落とすのではなく、早く日常生活に戻れるよう救いの手をさしのべるかの方が重要であるといった、死刑廃止論で常々言われているような結論が導き出されるのではないか。
最後に、慶應の太田達也教授による『必要的仮釈放制度に対する批判的検討』について挙げるが、氏の著作は論文が主で一般読者の目に触れ難いので、詳しい解説を行って欲しかった。
マスコミが流す様々な事件。目にするもの、気になるものは、そのまたほんの一部でしかないのに、なされた犯罪行為と量刑の重さについて憤りを感じることは結構ある。まぁでも大抵は顛末までは知らないまま忘れてしまう。通常は判決が確定して刑に服しているはずなんだけども、一体どれくらい入ったんだろうって思っても、まさかわざわざ調べたりしないよね。時間ないし面倒だし。そんなとき、結構こういう本を読んどくと雰囲気つかめるかも。実際の事件とその顛末(懲役)で構成されているから刑法のお勉強にもなるし、かといって判例集みたいな堅苦しいもんじゃないからさくさく読めるし。しかも手に馴染むサイズに重さで、値段もお手頃。
正義感ぶって感情高ぶらせても客観的データを知らないんじゃカッコ悪いし、とりあえずこの本を読んでみておくってのはいかがでしょうか。
個人的には大学での講義で受講可能な法律学、犯罪学、などを今の中学生世代から端的に社会の法律を教えるべきである、若くして犯罪を犯す輩は、無教養、無知、無学という常識の欠如がその要因でもある、モラル欠如時代と言われて久しい現代人必読の書
|