警察とマフィアがそれぞれ相手方陣営に送り込んだ潜入者2人が壮絶な駆け引きを繰り広げたサスペンス・ドラマの続編。返還前夜の香港を舞台に、前作の主人公であるヤンとラウの灰色の青春が描かれる。いわば前日譚である。
前作は互いに知謀の限りを尽くすスリリングな頭脳戦、先の読めないジェットコースーター・ストーリーという趣が強かったが、本作は濃密な家族主義に貫かれた黒社会における過激な愛憎劇という要素が前面に押し出されており(画面の色調も暗い)、さながら『ゴッドファーザー』のよう。「香港版ゴッドファーザー」などと評される所以である。
前作では詳しく語られることのなかった2人の秘密の過去が明らかになり、彼等の人間像により深く陰影が寄り添う。ラウ役のエディソン・チャン、ヤン役のショーン・ユー、双方とも屈折した心境を良く表していた。ただ、やはり前作のアンディ・ラウ、トニー・レオンの風格には及ばない。まあエディソン・チャン、ショーン・ユーの青臭さもそれはそれで魅力ではあるが(ただヤンの笑顔が見られないのが残念)。
本作の主役は、むしろ前作の名脇役であったサムとウォンだろう。本作でのサムは組織の一幹部にすぎず、ウォンもまだ警部だった。この2人がハウという共通の強敵に立ち向かうために手を組むところが見物である。前作を観ている我々は、この2人の奇妙な友情がやがて破綻することを知っているから、余計に切ない。ラスト、マフィアにしては妙に愛嬌があって憎めなかったサムが残忍なボスとなるシーン、ウォンが「ターゲット」の写真を貼り替えるシーンは痺れる。
敵役のハウも良い。「インテリで家族思いで一見すると線の細い2代目なんだけど敵対者には容赦しない冷酷なボス」という人物造形は『ゴッドファーザー』のマイケル(アル・パチーノ)を意識したものと思われるが、抑制された演技ながら非常に存在感があった。ファミリー全員で集合写真を撮ったり、敵対者を一斉に暗殺したりと、『ゴッドファーザー』へのオマージュと相俟って、忘れがたい印象を残している。
傑作インファナル・アフェアの前史を描くこれまた傑作。ちゃんと第1作のエピソードにつながるようにうまくできた脚本が見事。
ただし、アンディ・ラウとトニー・レオンのそれほど年が離れている訳ではない若い時代を、若手の似ているとは言いにくい俳優2人にやらせたのに違和感がある。でもその2人がなかなかの好演。特にエディソン・チャンが印象に残る。
それなのに、あんな事件を起こしてしまって。あまりにも若くして芸能界を去ってしまったエディソン・チャンを観ることができた、現時点で唯一の作品であるのが残念。
警察学校を退学扱いになり身分を隠して香港マフィアに潜入した警官ヤン(トニー・レオン)と警察に潜入したマフィアのラウ(アンディ・ラウ)の駆け引きと潜入という地獄の業に苦しむ様をスリリングに描いた快作。正体がばれると殺されるという恐怖が絶えることなく永遠に襲いかかるというまさに「無間地獄」が特にヤンの方から痛々しいほど伝わってくる(ヤンは精神的にも崩壊寸前でケリー・チャン演じる精神科医に看てもらっている)。一方、ラウの方はマフィアのボスに一生使われる苦痛から逃れる方法を考える余裕があり、どちらかというと上手く世を渡っている感が強く、どうしてもヤンの方に感情移入してしまう。 この2人の駆け引きは前半の麻薬取引での情報のやり取りで緊張感とスピード感いっぱいで描かれているし、無間地獄から脱しようとする策をめぐらせる展開はテンポも良く素晴らしい。そして、ヤンが精神的にダメージを受けながらも警官としての誇りを全うしようとする点を丁寧に描いているところなど単なるサスペンス・アクションレベルではない。 ハリウッドが見逃すはずがなくマーティン・スコセッシ監督が「ディパーテッド」としてリメイクしたほどの傑作だが、仏教の「無間地獄」をテーマとしたこの重厚な作品の真の意味はハリウッドでは描けないだろう(「ディパーテッド」とは「死に値する者」の意味)。 私の好きな宍戸錠に似ているアンソニー・ウォンがヤンの上司として登場し作品の渋味をアップさせているし、エリック・ツァンがマフィアのボスを十分な迫力で好演しているところも作品の質を上げている。2作目以降に潜入した2人の因果が描かれる等シリーズとしても冴える傑作だ。
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