『多情多恨』のなかで女性の衣装を描写するところがいくつかありますが、
紅葉は実に細かく描写しています。このあたりは西鶴の衣装描写にそっくり。さすが硯友社が元禄文学を手本にしただけあります。また主人公の柳之助が亡き妻を偲んで涙に暮れるのは『
源氏物語』の影響だといわれていますが、なるほど、柳之助は泣き通しです。いつも泣いている。
私は読んでいて、泣いている柳之助よりもむしろ、柳之助の無頓着さ、ずうずうしさ、その友人葉山の寛容さ、そして葉山の妻お種の時に優しすぎる態度にイライラさせられました。
特に柳之助。この男は私に言わせれば実に図々しい男です(笑)。そして実に無頓着な男です。友人の家に住み、それまでは大嫌いだった友人の妻お種の優しい態度に接するうちにいつしかその妻に恋心を抱くのですが、自分ではそれに気づいていないようです。
亭主が出張でいないときに「いつまでもやっかいになりたい」とか「病気でもしたら貴方にお世話してもらうつもりです」と言ったり、「お種さんが自分の寝付くまで枕元についていてくれるなら満足であろう」などと願ったり、腹が立つほどずうずうしい。亭主が出張中、柳之助が悶々として眠れず、ついには夜中にお種の枕元へ忍び込むにいたっては「柳之助、おまえなんちゅうやっちゃ!行動する前に回りへの影響を考えんかい」と小説の中の柳之助に怒る私でした。そう思って読んでいるところへ、あやしいぞと危険を察知した舅が登場したときにはほっとしたりして。
明治29年。日清戦争に勝利して軍人が威張っている時代に
紅葉はこの小説を書いたんですね。当時にしてはめずらしい口語文で書かれていますから読みやすいです。
ところで、この話に続きがあるとしたら、その後どういう展開になっていったんでしょうね。読者の想像をかきたてる終わり方です。
また、関係ありませんが岩波文庫の表紙のデザイン絵が艶やかです。
インディーズはあまり聞いていなかったんですが、友達に進められたSQUEEZE!!の
紅葉を聞いたら、何と言うか優しい気持ちになれました。
良い意味でなんとも不思議な曲でした。
これはみんなにオススメできます!