臨床試験、薬の開発は普通製薬会社によって行われる。外から見るとプラセボと比較して有意差が出れば良いだけの簡単な仕事に見えるかもしれない。しかし実際には長い年月をかけて何千というコンパウンドレベルから候補を絞り、前臨床や安全性確認のPhase Iをクリアして臨床試験に辿り着くには気の遠くなるような時間、人、費用、努力が必要とされる。私も実際に臨床試験の仕事をしているが、もし自分だけでやれと言われたら、とてもやれるとは思えない。会社と言うシステムがあっても大変な事を、著者は自身の臨床経験と基礎研究に基づき、世界中が長い間出せなかった『どうして統合失調症になるのか』『どうすれば統合失調症そのものを治せるのか』への回答に挑んだ。睡眠時間を削ったとあるが、かなり控えめな表現だと思う。情熱があれば誰でも出来るような簡単なものではない。臨床をしていれば、基礎研究をしていれば誰でも気が付くものでもない。医師としての治療に対する執念、研究者としての誠意と努力、そして自分がなすべきことへの責任感、患者さんに対する愛情、夢を追い続ける若さ、人が気が付かないことに注意を払う精密さ、全てが揃ってこの新しい治療法は発見されたと思う。医療や研究に係わる人には是非読んで欲しい。
著者は、10年ごとに仕事を変え、それぞれの分野で世界トップクラスの実績を残した人。1980年代までは著名人であったらしいが、事業家などではなかったため、本人の死去と共に世間から忘れられようとしていたが、
ハヤブサの帰還で小惑星「イトカワ」が有名になった。勿論、これは日本で始めてロケットを飛ばした糸川博士を記念して付けられた。
40代の私も、「名前は聞いたことがある」という程度だったが、1981年出版の本書が、現在日本社会に出現した問題の萌芽を30年前に鋭く指摘していることに驚く。
例えば、「テレビが出現して以来、大人と子供との間にあったしきたりが次第になくなりつつある」との指摘。
著者の実体験を基にした、人生の目標の見つけ方が書いてあり、高校生・大学生にもお奨め。