他の方も書かれてますが、この作品は心象風景そのものようなところと夢の部分が重なっている。
DVDは1998年盤と2006年盤では若干画質が違っている。どちらがいいというわけではなく性質が違う。2006年盤の方がデジタルな感じにもかかわらずヌメリがある。1998年盤は自然な感じ。
80年代の終わりごろかテレビで放映された吹き替え版はまるで戦争映画そのものな感じだった。その後字幕付きで放映されたりしたが、私自身は当時高価だったVHS盤で買ったり、三百人劇場のタルコフスキー特集や中野の野方図書館での16ミリ映写会に出かけた。レーザーディスクも持っていて、かなり心酔している。
イワンの可憐さと言おうか、そういう要素で軍人たちの取り合いを連想させる場面もある。むろん心理的にである。軍人の心理の動きが面白い。
白樺のシーンはテレビの吹き替え版ではカットされたが、いわゆる反戦物として敬遠していては勿体ない。それもあり心象風景あり、誰かも言っている戦争の中の静寂、子どもたちの可憐さが相まって映像は他に例のないほど美しい。
特に井戸、トラックの荷台、馬がりんごを齧る、砂浜で遊ぶ子どもたちの描写は美しく感動する。子どもたちは天国で楽しく遊んでいるのだ、という悲しくも宗教的なまでの諦観も感じる。
何度見ても映像美の世界に入っていけて飽きることがない。
タルコフスキーを語るに欠かせない作品だと思う。
追記の形になるが、イワンと老人のシーンは舞台の傑出した芝居のような非常に印象的な場面である。
2006年盤は画質の古さを感じさせず黒のトーンに締まりがある。1998年盤は画像のノイズが残ってはいるが、古いフィルムの感覚を持ちたい人には向いているかもしれない。なお、2006年盤は2枚組で2枚めには出演者や
スタッフのインタビューが収録されている。定価にして1900円高いのはそのためもあると思う。
タルコフスキーの作品の中では、未熟であり、不満の残る作品である。特に、主人公のイワン少年の性格が類型的である事が、私には不満である。しかし、それでも、タルコフスキーの作品である。破壊された教会とその背後から射す太陽の逆光、狐の嫁入りの様な美しい夕立ち、イワン少年が向かふ暗い水の水面など、はっとさせられる、神の啓示の様な、美しい場面が、随所に在る。戦争を描きながら、自然と人間を、絵の様に描くタルコフスキーの視線は、後の『アンドレイ・ルブリョフ』や『鏡』を十分予感させる物である。又、タルコフスキーは、日本映画、特に黒澤明と溝口健二に傾倒して居たとの事だが、日本映画の影響が随所に見られる点でも、興味深い箇所が多々有る事は指摘しておきたい。−−
ベルリンにおけるソ連軍の
ベルリン市民への残虐行為を描いて居ない事は仕方の無い事である。そうした現代史の解釈についてはあえて論じない。−−戦争は、悲惨である。
(西岡昌紀・内科医/東京大空襲から61年目の日に)