本ドームツアー全会場において、最初に次のような内容の短編映像が上映された。「アストラルシティー」という、何不自由ない城郭都市があった。ある時、一人の男が「ここには何でもあるけれども、何かを忘れている気がする」と言い残して旅立った。その男は長い旅の末、この世の果てと呼ばれる場所でコンテナ住まいを始める。そこに、ある日美しい女性がやってくる。二人は恋に落ち、三人になった。コンテナは次第に増え、たくさんの人が集うようになった。そこにはテクノロジーも富もなかったが、自由があった。やがて、この街で生まれ育った少女達が集まって歌い始めた。少女達は歌や踊りを通じて自分達を表現した。喜び、切なさ、悲しみ、夢、希望、明日を歌で描いた。やがて少女達の歌声を聞きに来る聴衆が増えていった。彼女達は自らをこう呼ぶようになった。「アストラル・キングダム・ベイビーズ(星の王国の子供たち)(Astral Kingdom Babies=AKB)」。
この短編映像は、決して添え物ではない。歌い、踊り、パフォーマンスをするメンバー。それを享受するオーディエンス。この空間の通底にあるものは、「自由」の歓喜である。
本コンテンツは、コンサートツアーの熱気を伝えてくれる秀作となっている。
ただ、主要メンバー(篠田麻里子、秋元才加、板野友美)の卒業コンサートとなった、三日間のみをパッケージしている。そのため、彼女たちの卒業に感情移入できない視聴者は、いささか鼻白む思いを抱くかもしれない。
評者は、京セラドーム(
大阪)二日間、ナゴヤドーム(名古屋)二日間、東京ドーム(8月24日)の、計5日間観覧した。たまたまであるが、すべて、この商品に含まれなかった日を観覧した結果となった。
評者が観覧したなかで、是非コンテンツとして流通していただきたいシーンが、四場面ある。
ひとつは、ナゴヤドーム二日目最終盤で、芝智也・SKE48劇場支配人登場のもとプレゼンされた、SKE48・ナゴヤドーム単独コンサート決定の発表場面である。あの瞬間、会場は表現し難いほどの興奮に包まれた。松井玲奈(SKE48)は歓喜のあまり、その場にへたり込んで立てない。評者はAKB48ファンであって、SKE48ファンではないが、感動・感激に胸打たれるものがあった。SKE48は、AKB48グループ内にあって、唯一、「挑む野心」を前面に打ち出したパフォーマンス集団である。これまでも、そして今も、常にAKB48を追撃してきた。追う立場に無我夢中になっていた彼女たちであるが、ふと気がつくと、AKB48も成し得ていなかった「ドーム単独コンサート」に最初に到達してしまったのである。松井玲奈・松井珠理奈はじめ彼女たちの心中、感慨無量であっただろう。あの瞬間の会場の映像は、くまなく是非公開してほしい。(そのとき、山本彩(NMB48)が隠しきれずに見せたという悔しい表情も、もしカメラがとらえていたら、見せてもらいたい。)
ふたつめは、東京ドーム8月24日のコンサート最終盤に戸賀崎智信総支配人によってプレゼンされた、新チーム4の発表場面である。巨大
スクリーンに「Team 4」と表示された瞬間の会場のどよめきと興奮は筆舌に尽くし難い。また、研究生昇格の発表時に、戸賀崎氏が13期研究生・篠崎彩奈の名前を呼び忘れた顛末時の、会場全体を覆った「また、やっちまったな」感は絶妙である。一年前の東京ドーム「渡辺麻友 呼び忘れ事件」の再来である。篠崎彩奈の号泣、一方、舞台裏で見せた戸賀崎氏の悔しがりぶり、さらには新チーム4結成に興奮してなぜかマイクを独占して一演説ぶってしまった岩立沙穂の映像も貴重である。
三点めは、ぐっと軽い話題の場面である。東京ドーム8月24日の、『ヘビーローテーション』歌唱時に、センター・大島優子のスタンドマイクが2メートルくらいに伸びて縮まなくなってしまった。この映像は、8月30日放送の『ミュージックステーション』番組内で紹介された。ただしダイジェストだった。実際は、そうとう長い時間、大島優子が悪戦苦闘していたのである。周りのメンバーもどうしていいか分からず、困惑しながら歌い続けるなか、島崎遥香が来て、あっさり直してチャッカリ、ポジションに戻るまでの一部始終は、じつにおもしろかった。(評者の席はメインスタンド2階席中央だったため、たまたまであるが、真上から目撃できた。)
最後も軽い話である。京セラドーム初日の開演前の影アナは山本彩(NMB48)だった。山本が「バイクだけに〜」と煽ると、会場全体が「ブンブン」と大合唱で応える。さすが
大阪のノリは一味違うな、と妙に感心してしまった。(解説しておくと、これは『バイク川崎バイク(BKB)』という
大阪の芸人の持ちネタである。)開幕後、数曲披露した後の、最初のMCで、市川美織(NMB48兼任)がその喜びを一生懸命話すのであるが、そこは「噛みセブン」興奮状態で何を言っているのか、よく聞きとれない。その一言一句を大島優子が脇で明瞭な発声で反復する。そのやりとりが軽妙だった。
総じて、極上のドームツアーを堪能できる、良質なエンターテインメント作品に仕上がっている。