はっきりと自分が恋をしていると自覚している人、自覚していない人、恋を静観する人、彼と恋愛中で女友達との距離感も謀ってる人とか登場する9つの短編集は9人の作家による様々な恋の話で、文体も行間も全く雰囲気が異なっている。
各短編の始まりの表紙はオレンジ、桃、紫、赤などの異なる色の紙のページとなっていて、新しく違う話を読み始めるためにページをめくるのも楽しさがあった。
自分はその人に恋をしていても、肝心のその人はその恋心を気づかぬふりをしているのか、気づいているのか、それなら何故、会ってくれるのか?
「恋愛小説を私に」ではそんな女性の恋の甘い苦しさが28歳の主婦が主役で気持ちが描かれていてリアルだった。結婚していてもそんな気持ちは知らずに自然なもので人間らしいことだと思えてくる。
また「青い空のダイブ」は生き生きとしたスカイダイビングなどの情景と恋の話、人物たちの会話と合わさって小説なのに劇画のようなテンポもあり楽しい。
他に7つの短編、どれも独特で恋の気持ちのボリュームを身近に感じることが出来た魅力的な1冊です。
湯本香樹実の「夏の庭」の
英語版。翻訳を担当したCathy Hiranoさんの翻訳裏話的なエッセイを読む機会があり、面白そうだと思ったので購入して読んだ。いままで、日本文学の英訳を読むのを避けてきた。理由は英訳版にしばしば見られる無理な訳や、日本語にしかない表現を苦し紛れに訳してあるのを読むと興ざめするからだ。世の中に
英語の書物は星の数ほどあるというのに、そこまでして英訳を読む理由がなかったからだ。
しかし、翻訳は所詮妥協の産物という、私の先入観をもってしても、本書は原作の良さを十分に引き出していると思った。それは、訳者が、
英語圏の子供には理解不可能な日本語の文化的背景をもつニュアンスを訳出する際に、(例えば「塾」とか、「お好み焼き」など)原作者と編集者との間でたびたび意見交換を行った結果だそうだ。だから、本書には日英2つの言語の間の絶妙なバランスがあるように思う。またさまざまな花の名前などが出てきて、
英語では一体どう表現するんだろう?などなど、興味の尽きない1冊だった。
ただ、ーー必ずしもそれが悪いことだとは思わないけれども、ーー読んでみて、英訳の方が少し上品な感じがした。カワベ少年のはちゃめちゃぶりも少しおとなしいトーンになっていた印象を受けた。原書を初めて読んだときの、抱腹絶倒には、及ばなかったように感じたので、星1つ減らしたが、名作であることには何の疑問もない。