何回聴いても飽きの来ないアルバムです。坂本龍一のアルバムの中では、一番長くリピートします。心境によって感じるものが随分変わってきます。決してポップではありませんが、シンプルで美しく、奥深さのあるアルバムです。
全曲ソロピアノ(ラストはミニマルなパーカッション・ミュージック)で、
全曲新たに弾き直(新録)されているのが、この盤の魅力。
普通ならそのまま収録されそうな「エナジー・フロウ」も新しくなっていて、
オリジナルよりもさらりとした曲になり、魅力が増している。
このアルバムが安易に作られていないのは、『裏BTTB』の他の2曲が選ばれていないことでも分かる。
選曲もいいが、曲の並びも面白い。2曲目から、6曲目までは、しっとりと、言葉は嫌だが”癒し系”。
「Lost Theme」などは、ほんとに優しい世界。意外なのが7曲目の「ハッピーエンド」。これは2012年リリースの
『THREE』の冒頭に置かれる曲。こちらは、YMOを経てきた人らしい、編曲。
それに続くのがその延長上の「千のナイフ」。これら2曲は、アルバムのアクセントとなっている。
9曲目の「
ファウンテン」でもう一度、最初の流れにもどる。短い曲だが、点描のような音の流れが美しい。
10曲目の「シェルタリング・スカイ」。曲の雰囲気はそのままに、重々しさがなくなり
(和音をフォルテで弾く箇所は、トレモロ処理)、ヨーロッパを時にオリエントを感じさせる香気が漂う。
この後の「ファム・ファタール」の出だしもよく、秋が深まり、枯葉の上を歩いていくよう。
世界の深さに向かったような曲が続いた後にくる「星になった少年」。光の方へ顔を向けた世界。
彼のアルバムはある程度持っているが、今まで聴いた中で、誰かに1枚プレゼントするなら、
今はこれを選ぶと思う。初めて、”これを誰かに聴かせたい”と思ったCD。
ひとつ気になることがあるとしたら、
ジャケットのイメージが、内容と合っていないこと。
聴いてみると、アナログ感いっぱいの味わいを愉しめるのに、
ジャケットはデジタルな印象。