19世紀ではなく18世紀独立戦争前の時代。基本的には恋愛映画であるが、別な観点からみると、ネイティブ・アメリカン(インディアンという言い方はもう止めたほうがいい)悲史という見方も出来る。英仏が植民地分割戦争をしていた時代、ダニエル・デイ・ルイス演じるナサニエルは白人の子でありながら、モヒカン族に育てられ、その戦士となる。英国軍の司令官を娘を偶然助けることから、たがいに愛しあうようになるのだが、他の方が言われているように全編を流れる音楽が運命的に感じられ、観る側を感情移入させる。公開時、夫婦で見に行きすっかり気に入り、DVDがでたら即購入した。私がいちばん興味をいだいたのは、ダニエル・デイ・ルイスのカッコ良さと、残虐な敵役を演じ、
フランス側についたタの部族のリーダー(名わき役)との確執だった。その背景には白人の植民が進むなかで滅ぼされていくネイティブ。アメリカンの悲しい歴史を感じるからだ。17世紀初め、最初の植民が始まったころ、米国には推定で2000万から3000万のネイティブ・アメリカンいたが、19世紀末には、一時数万人までに激減し、いまは50万人くらいまで増えてきているらしい。そうした民族としての悲しさが悪役のリーダーに凝縮されているような気がした。ただ、単に恋愛アクションものというだけでなく、深みのある映画に感じた。
本書は、非常によく書けているルポだと思う。とくにゴールドマンからヘッジファンドへの転職時に取引プログラムのソースコードを持ち出したかどで逮捕されたシステムエンジニアのセルゲイ・アレイニコフの件は非常に興味深く読んだ。当時、大変な事件だと衝撃を持って報道を読んだ記憶があるが、本書で明かされた内容が事実なら、滑稽でありとんだ勘違いの悪い冗談に見えた。アレイニコフにとってはひどい災難だったろうが、テクノロジーの黎明期にはこんなことがあるのかなとも感じた次第。
本書の主張するポイントについて:米国のNY証券取引所で2010年5月6日午後2時45分(米国東部標準時)に発生した、後に「フラッシュ・クラッシュ」と呼ばれることになる株価の暴落が発生した後のHFTに関する議論、そして米証券取引委員会(SEC)と
商品先物取引委員会(CFTC)による合同
調査の結果の内容と、本書の指摘する内容とは大きく変わったところはみられず、今までの一般 的な議論の蒸し返しにみえる。
しかし、ダークプール内部での取引がすべて不正であると本書では断じられていることは、それが覆面
調査のように実験した証拠が示されているものの、一方的な感じもした。そして、もうひとつの悪玉としてHFTが描かれている。たしかにレーテンシー・アービトラージはよろしい行いでないと思う。その一方で、エレクトリック・マーケット・メーカーなど市場に有益なHFTも存在することも確かだろう。だから、害虫を駆除するため、益虫をも同時に駆除してしまう農薬を散布することが公益にかなうことなのだろうかと考えさせられた。
レーテンシーを人的に設定して、ハイスピード取引をできなくするという付け合せ手法を採用する市場もあるようだが、テクノロジーの進歩は際限ないはずであり、これを止めることは人類の進歩を止めてしまうリスクを孕まないだろうかと危惧した次第。
とにかく悪玉善玉を配置したり、話を単純化したりして、理解させやすくしようとする努力の跡が随所に見えたものの、抽象的でわかりにくい証券取引を平易な文章でわかりやすく描写することに成功しているうえ、悪役としてHFTとダークプールやブローカーのインターナライザーを配し、やや単純化させすぎだが、だからこそ業界部外者にも理解しやすい記述としている点で功罪両面での評価が可能だろう。
最近の米国では、ダークプールでの取引を公開させるように規制せよとか、HFTの取引や注文と注文キャンセルに対しては特別に手数料や税金をかけろといった議論が見られる。本書に触発された民意の盛り上がりを受け、政治が突き動かされるといった社会的ムーブメントを巻き起こしているのは著者、ルイス氏のペンの力かもしれない。
彼我の事情を見比べると、米国は資本主義的競争主義の発想が強い様で、取引所・市場間の競争を促して消費者(この場合は最終投資家)に安くてよいサービスを提供させようとする発想が今日の米国株式市場の分断化という状況を作り出したことの根底にあるようだ。だから、本書の問題提起も市場の発展に寄与することになるかもしれない。
翻って日本は、
大阪証券取引所と東京証券取引所が統合し、単一取引所の方向を打ち出している。ただ、海外取引所との競争は今後あるのかもしれない。
世界的には同じ証券を多数の取引所で取引させるという国は少数派で米国の市場制度は独特だともいえなくもない。なおEUではEU各国の取引所やEUのATSに相当するMTFがEU各国上場証券を取引させている。しかしEUは国家の集合体なので加盟国一律に一貫した証券取引のルール・規制がなく、細部では各国のルール・規制が適用されているので、米国とは似ている点もあるが根本的に異なっている。
日本の株式取引におけるHFTのシェアもそれなりにあるという話であり、ダークプールの利用も米国よりはまだ少ないものの、増えてきているそうだが、日本の証券市場に関してはここでの話題ではないので割愛する。
証券取引の厄介なテーマをとりあげているものの、証券・金融関係者だけでなく万人向けの読みやすい作品になっているといえるだろう。あと、本書の英文はプレーンな
英語がほとんどなので
英語力がそこそこでも結構読みやすい。この点でもお勧めできる。