この映画の評価は両極端だ。最高か最低で普通はあまり無さそう。そして最高と思う人は現時点では少ないはずだ。DVD発売を機に少しでもこの映画を好きな人が増えることを願う。
この映画は詰め込み過ぎ、難解であるという点は否めないが(3時間で大王の生涯を描くのは難しい)、少しでも歴史的な素養があれば「おぉ」と思う点が多く散りばめられている。1回見ても楽しめるが予備知識の有無で鑑賞の深みは変わってしまう。ヨーロッパで支持され、日米では支持されなかったのは歴史的な素養の有無が大きかったはず。関連書を数冊読み映画館で何度か見た私も見落としは多く、DVDで早く見直したいと思う点もある。
コリン・ファレル演じるアレキサンダーは人間的であり過ぎた(彼の演技は素晴らしかった)。悩み、挫折し、苦しければ泣くし、弱音も吐けば部下を感情的に殺しもした。英雄像とはかけ離れてリアルである。そしてバッシングの一因ともなったバイセクシャルとして描かれた点。これは史実である。これらを無視せず敢えて描いたのは、監督が史実に忠実であろうとしたからだと思う。そこがグラディエイターやトロイなどとは大きく異なる点であり、一般受けしなかった点でもあろう。
難解ではあるが、この映画は繰り返し見るごとに新たな発見がある。娯楽作品ではない味わい深い映画を見たい人には、是非見て欲しい。
見る前にさんざん評判の悪さを耳にした。
まず主人公の
アレキサンダー大王をゲイとして設定したせいで(それ自体がテーマではないのだが)、
アメリカの映画館からは総すかんとか。
また、映画自体も評論家からも一般観客からもあまりいい評価は聞かず、ワースト映画の候補だとも聞いた。
というわけで、やや気後れしたが、やはり評価が低かった『トロイ』がけっこう楽しめた例もあるのだし、
ギリシア・
ローマの歴史が好きだから、とにもかくにも見てみた。
なるほど、あまり成功しているとはいえないし、佳作とは呼びがたいだろう。
が、けなされているほどひどいとも思わなかった。
ある種の力作ではあろう。
何しろある程度長い歴史を描こうとした場合に、映画の上映の長さをどう扱うかが一つポイントになる。
これも3時間と結構長いのだが、いわば闇が少しずつ英雄の心を蝕んでいく様を
説得力のある形で、かつメリハリを付けて描くのは難しかった、という印象がある。
テーマ的には、歴史上の英雄の光と影、ということになろう。
アレキサンダーに関してはわかっていない部分も多いらしく、
そうでなくても昔だから、これを物語として捉えれば、どうしても作る側の一つの解釈に過ぎなくなる。
その解釈というのは、特に支配的な母親に育てられるなどで複雑な精神を抱えた主人公が、
一方で華々しい活躍をしながらも、同時に英雄や神話のイメージとの乖離に苦しみ、
たえず「ここではないどこか」を探し、在り得ない夢の場所を求めて、
憑かれたように遠征を続けて(なんとインドまで行った訳だが)自らを追い詰め、
結局自らの背負った心の闇に食い殺されてしまう、という話だ。
アレキサンダーの最期についても史料上のものとは別の解釈になっているが、あり得ないことではないだろう。
こうしたある種の壮大な滅びというか、悲惨美のようなものをかなり生々しく描くというのは、
『プラトーン』や『7月4日に生まれて』を撮ったこの監督の基本的なスタンスなのだろう。
それらの映画を私はあまり買っていないし、その意味では、この映画も同じような印象だったが、
話が大きすぎ、かつ映画として長すぎて、ポイントの描き方がくどくどしかった感じで、
うまく映画としての焦点を絞り切れなかったという印象だ。
ペルシアとの決戦などは、『トロイ』とは比較にならない規模で、相当の迫力だが、
結局アメリカを初め、映画として売れなかったとなると、赤字の回収が大変だろうな、と思う。
主演のコリン・ファレルもぱっとしない。
ある種のナイーブさを出すために、この俳優を使ったのだろうが(
ブラッド・ピットに似ていないこともない)、
いわばマクベスのような妄執を出すためには、
もう少し骨太というか、あくの強い俳優のほうがよかったような気がする。
いずれこの種の映画は、一つを描き方をきっかけに知りえない歴史に夢を託すところにあるので、
その意味では、歴史好きなら見る価値はあると思う。