本作は阪神・巨人戦の歴史の中から名場面を選りすぐり、阪神サイドから光をあてた阪神版。私は巨人ファンだが関西で生まれ育ち、毎日阪神の記事が一面のスポーツ紙を家でとっていた。したがって、阪神の選手たちにも思い入れがある。私がプロ野球に一番熱中していたのは巨人のV9中期から長嶋巨人初期にかけて毎年のように巨人・阪神が優勝を争っていた時期である。残念ながら、戦前から江川・小林の因縁の対決の頃までは、ナレーターこそ違うけど(本作では月亭八方)巨人版と同じ映像が使われている。王の素振りの場面まで本作に入れる必要があったのだろうか。この時期で巨人版にあって阪神版にないのは王の1試合4打席連続ホームランの試合ぐらいである。私が一番思い入れのある村山・江夏・田淵の映像が阪神版にしては少ないのが物足りない。
阪神版が独自色を出すのは85年から。そのシーズンのTG第1戦、伝説のバック・
スクリーン3連発の第2戦など、あの年の阪神打線の凄さを見せつける試合が次々に紹介され、最後は55号を打たれないように巨人投手陣がバースを敬遠する、巨人ファンには恥かしい場面で締めくくられる。その後、阪神は長い暗黒時代を迎えるが、92年の亀山の活躍、新庄や井川の台頭、代打八木の活躍等で巨人にサヨナラ勝ちした試合が多く収録されているので、阪神ファンは満足できるだろう。巨人版ではこの頃はホームランで勝つ試合が、阪神版ではヒットを積み重ねて勝つ試合が多く紹介されている。野村監督の時代には開花しなかったそのこつこつ野球が、星野・岡田両監督の下での優勝に結びついていく軌跡がよくわかる。
本作に登場するには、魅力ある日本プロ野球の歴史を作った阪神・巨人の名選手たちばかりである。熱い対決の伝統が今後も引き継がれることを願ってやまない。
昨今スポーツ界における体罰、暴力の問題、NPBの統一球をめぐり、NHKまでが大々的に取り上げて議論喧しい中、非常にタイムリーな本です。桑田さんが東大野球部を指導するのを取り上げたNHKのクローズアップ現代を見て、彼の野球観、人生観に興味がわき購入しました。現役時代はややダーティーなイメージのあった桑田さんですがこの本を読むと野球に真摯に向き合う姿に圧倒されます。野球だけでなく、人生の様々な局面に応用のきく、実体験や言葉がちりばめられていました。テレビ番組の中でも長い時間練習をするのではなく、短時間に集中していかに質の高い練習をするか考えようよと東大生たちに促していました。投手には難しい事は言わず外角低めに80%制球することを要求します。シンプルな言葉の中に野球の真髄が込められている気がしました。心の調和、尊重、練習の質の重視の中にスポーツマンシップが育つという図式には納得が行きました。対談をベースに書かれていて読みやすい本です。