著者若桑氏の真摯な姿勢によって書き下ろされた本書は、
フィレンツェに残された膨大な歴史的、あるいは芸術的遺産を丁寧に紹介した実用的なガイド・ブックの側面を持っていると同時に、ルネサンスを生み出した新思想の母胎としての奥深い都市の歴史をまとめあげた労作として高く評価できる著作だ。体裁を美しく
仕上げることより、むしろ内容の充実の方に力が注がれている教養書なので、豊富なカラー写真やイラストで彩られたイメージ主体のガイドとは全く別物であることを知っておく必要があるだろう。掲載されている写真は単行本の時から口絵以外は白黒でサイズも小さいものだったが、それはあくまで実際に実物を見るための目安にすぎない。しかし今回の文庫本化で携帯の便宜が図られ、
フィレンツェの見どころがより身近に、しかも詳細に体験できるようになったことを歓迎したい。
彼女が
美術の専門家であることから本書で取り上げて説明している絵画、彫刻、建築物などは非常に豊富で、また比較対象のためにも数多くのサンプルを提供している。若桑氏の文章はそれほど平易ではなく、読む側にもある程度予備知識が求められるが、随所に特有の鋭い洞察があって
美術史家としての主張に貫かれているところが最大の面白みで、特に第9章『ウッフィーツィを歩きながら』は、この著書を総括する彼女の研究の面目躍如たる章になっている。通り一遍の観光旅行から一歩踏み込んだルネサンスの
美術巡りをしたい方には、本書と中公文庫から出版されている高階秀爾氏の『
フィレンツェ』の併読をお薦めしたい。
吸い込まれるような細い階段が続くドーモの探検から始まる
フィレンツェの街歩き、
ドーモの屋上の絶景も素晴らしいし、街に出れば管屋のおじさんや路上をキャンパス変わりに
する学生のお姉さんなどの素朴なふれあい、騙し絵の窓や馬を繋いでいた輪っかなど
ちょっとした発見もあり楽しい、オルトアルノの穏やかな雰囲気も良い、
春の心地よい風に吹かれたようなゆったりした散策気分を味わえます。
ナポリは2005年訪問という、まだゴミだらけになる前のナポリ、
それだけで安心して(?)街歩きを楽しめるでしょう。
ローマ時代から続く古い石畳の旧市街にはためく洗濯物は
いかにもナポリらしい風景だけどやっぱり絵になる。
ナポリの下町の活気に満ちた暮らしに触れるとこっちまで元気になります。
夜の路上ライブに熱狂する女性たち、深夜までバイクに乗って元気にはしゃぐ若者たち、
夜遅くまでゲームに興じるお年寄りたち、みんな生き生きしてて、
こんなふうに人生を楽しんで素敵に歳を取っていくナポリの人たちが羨ましいです。