その昔「がきデカ」という漫画で人気を博していた山上龍彦が小説家に転身して書いた短編集。
漫画的な話がちゃんと小説として描かれていることに、まず驚いた。 片手間でなく真摯に小説に向かってるんだなぁという印象。 ほどよく面白く、ほどよく上手い。漫画で感じたような下品さもあまりない。 その分、勢いが弱い気もして強烈な印象は残らなかった。
可もなく不可もなく、無難といった感じの小説です。
いわゆるショートショートが30編、どれも10ページ前後で気軽に読める。
短いだけに、ストーリーにメリハリをつけるのがかえって難しそう。
「これは」と印象に残ったものをいくつか。
落合恵子『探偵ごっこ』。公園に行くおじいちゃんを探偵ごっこで、こっそり尾行する孫。ほのぼのとした結末。
高橋三千綱『相合傘』。ある雨の日の出来事、その後の中年男の寂寥感。
小沢章友『死の天使』。研修中の看護師が壁に貼っていく手作りカレンダー。本格ミステリに匹敵するショートショート。
ついこの前までは、40数年前の時代色豊かな、やや誇大妄想じみた「近未来」漫画で済んでいましたが、今となっては極めて真実味を帯びた、「直近未来」漫画となってしまいました。クーデターはともかく、タコ部屋労働ついては。 「反対する奴らは身柄を拘束してタコ部屋へ放り込め。石炭掘らせろ!これぞ究極の「テロ対策」だ!」、こんなことが被害妄想であるうちはいいですが、自意識過剰でエリート意識ばかりが肥大化した幼稚な権力者どもが、切羽詰まったりすると、開き直って「何でもあり」になるから怖い。
お気に入りの作家さんの作品が一番つまらなかった。いろんな方の作品が短期間で読めるのは、お試し感があっていいと思いました。次回作品のセレクト参考になります。
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