単純な感想を述べると、まあまあ面白かった。が、この話の最も重要なSF的モチーフの一つである「意識のない人間」というものがどうも腑に落ちない。人々から「意識」が失われる、といって何事か問題のあるように思えない。作中でさえ、外面上は何も変わりのないことを述べているし。そして、ミァハが、強姦されている最中に意識が芽生えたが、それ以前は意識がなかった、と言うことも実際不可能だろう。「意識は脈絡のうちに示されるもの」というウィトゲンシュタイン的な見地を用いるまでもなく、この「意識」云々に関して訝しく思う人間もいるのではないだろうか。――と述べた後で、事実ここで言われていることがどのようなことなのか(リアルではないにしろ)感覚的に解し、面白みを見出すことのできる自分をも発見することができる。それは作中で散々述べられ、批難さえされるところの「共感」にほかならないのだろう。そもそも、「共感、思いやり」に嫌悪を抱くのであれば、他者の意識云々などまったく無きものとして無視してしまえるだろうに。他者に(霊的な、幻想的な意味合いでの)意識が存在している、ということをまず以て認めてしまっているところは、ミァハのカリスマ性を(ひいてはこの小説のロジックを)一段落としているように感じるが、それも含めて彼女の、文字通り願いであったと言ってしまうこともできる。完全に合理的な人間は選択の余地を失う。という考えはなるほど、と思えるし、ちょっと面白い。が、真実完全に合理的な人間であれば、生きることそのものに対する不合理を放っておくだろうか。という意味で、この小説は、作者の「願い」の域を出ない。といって糾弾されるいわれもないだろうが、それはこの小説がSFであり、エンターテインメントであるからか。 SF的描写は、例えば拡張現実だとか、サイバネティクス山羊だとかいうモチーフのほとんどがあまり詳述されていない。それは今でこそSFに慣れた大衆に納得できるほどの描写ではあろうが、過去にある程度説明責任を負わせている感がある。壮大な世界観ではあるが、登場人物が意外と少ない。そして、世界規模の大事件なのに、トァンの身の回りのみで事が進んでいるように感じる。それを予定調和的といって批判することもできる。まあ、そこまで気にはならなかったが。
目次は75項目に分かれていて良かったのですが、
本文が会話形式で、
慣れるまで読みづらかったです。
(全項目と話が繋がっているので、
読みたい項目をいきなり飛ばして読むことができない)
内容は具体的で良かったです。
続けなければどれも意味ないですが、
実行してみようと思うことがたくさん。
この本より先に
『イタリア伯爵夫人が教えてくれた魅力的な女性に変身…』
を読んでいたので、
内容がところどころカブっていました。
どちらも好きで参考にしておりますが、
私の勝手な感想ですが、
・『イタリア伯爵…』は前向きに気持ちにさせてくれる本で
・こちらのの方はマニュアルって感じです。
後進諸国で内戦や大規模虐殺が増加してる近未来が舞台のSF小説。 といっても、内容が現在の状況にかなり近いため、近未来が舞台であることを忘れて読んでいて、作中に「人口筋肉で作られた侵入鞘」などが出てきて「ああ、これはSF小説だった」と思い出す、そんな緻密な作品です。 米国大尉クラヴィス・シェパードが、『経歴等が謎の男ジョン・ポール』を逮捕する命令を受け部下達と供に後進国に派遣され失敗し帰還。 数回同じ命令を受けます。 その命令が発せられる度『ジョン・ポール』の経歴が少しずつ明らかにされ、命令が持つ本当の目的が仄見えてきます。 『ジョン・ポール』が入国した後に、その後進国で大規模虐殺が発生するため『ジョン・ポール』がある方法を使って大規模虐殺の種をまいているのではないかと推測される事。 『ジョン・ポール』とは何者で、大規模虐殺の種を撒く方法は何なのか、またその目的は? なぜ米国が逮捕命令を出し、彼の経歴を隠すのか?
舞台になる後進国の悲惨な内戦の様子を背景に、「自分の家族に対する鬱積した念」を抱えたクラヴィス大尉の語りで全ての謎が解き明かされる最後まで、夢中になって読みました。 とても、面白い小説でした。
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