性。投瓶。幼児。異国。死。男装。悪魔。電信。変態性欲。幻肢。薬。宝石。夢遊病。遺伝性。片輪。殺人芸術。鏡。オホホホホホホホホ。
女。
"……彼女は暗黒の現実世界に存在する底無しの陥穽(おとしあな)である……最も暗黒な……最も戦慄すべき……。……陥穽と知りつつ陥らずにはいられない……"(「鉄槌」)
地獄を人間存在自体の中に見出してしまったモダニズムの、その先には何があるのだろう。自己の内なる深淵に無限に堕ち続けるしかないのだろうか。
「瓶詰の地獄」は、身体の内から暗く重い熱が喉を塞ぐように込み上がってくる傑作。
棺おけに入っていた遺体と別の遺体をすりかえる場面から始まる下巻。
実際現在起こった事件と、楊貴妃の時代の中国の怪事件、そして予想される事件などが絡み合って解き明かされていきます。
誰が、何の目的で事件を招いたのか?
この物語の語り部として登場した主人公の正体は?
終わりに近づくほど畳み掛けるような息もつかせぬ展開となっていきます。
以前は手元に文庫本があったはずなのですが見当たらず、 お話だけでも思い出そうかと、この漫画版を購入。 あらすじを思い出すには充分の内容だと思いますが、 それ以上の何か、伏線、別解釈、お遊び等々は描かれておりません。 絵柄についても、もう少しウマく描いて欲しいレベルです。 この漫画文庫シリーズの目的が、あらすじを読ませる所にあるのであれば、 絵柄の件を除いて星4つの作品だと思います。 しかし、原作を既に読んでおり、夢野久作ファンを公言出来る方々には オススメしません。
石井聰互の「ユメノ銀河」を観て「映像の生理」のようなものを感じた。 この作品では、映像が生きており、脈打っている。鼓動さえ聞こえる。そうした「生体」としての映像を見事に白と黒の光の息づかいのうちに実現している。ちゃぶ台を挟んでなにも語らず向き合う男女のシーン、動物と化したバスが雨のなかじっと汽車に飛び込む瞬間をねらっているシーンなど、ひとつひとつのシーンで映像全体が脈打ち、血流が流れる音が聞こえるかのようだった。第一級の映画と言えよう。 ちなみに「映像の生理」を知り尽くした作家でまず頭に浮かぶのは「小津安二郎」である。 それにしても私が最近観る映画のほとんどに「浅野忠信」が出演している。手塚眞「白痴」、石井輝男「ねじ式」、塚本晋也「双生児」、相米慎二「風花」・・。「映像」にこだわりのある作家が彼を重宝がると言えるのかもしれない。 たぶん彼を使う作家たちは彼のもつ雰囲気を求めているのだろう。私はあまり好きな役者ではないけれど。 さて、この作品の原作は夢野久作である。松本俊夫が映画化した「ドグラマグラ」を思い出す。そう言えば今は亡き桂枝雀が主演だったなぁ。
単にミステリィといったカテゴリーではくくれない『宇宙』を持った日本文学史上例をみない作品だ。1935年の完成だが10年の歳月をかけ徹底した推敲に推敲を重ねている。小栗虫太郎『黒死館殺人事件』や、中井英夫『虚無への供物』とともに、日本探偵小説三大奇書に数えられるようだが文字の持つ力がこれほどまでに怒濤のように押し寄せ、読む者の心を不安定にしてしまう作品は世界中が探してもこの一冊だけかもしれない。
あらゆる意味で先駆的だ。『脳』に根ざすストーリー展開は現代本格の人々に多大な影響を間違いなく与えている。胎内で胎児が育つ10ヶ月のうちに閲する数十億年の万有進化の大悪夢の内にあるというエルンスト・ヘッケルの反復説を下敷きにした壮大な論文『胎児の夢』や、「脳髄は物を考える処に非ず」と主張する『脳髄論』に読む者は始めから翻弄され続け、区切りの無いストーリーに休む間さえ与えられない。
出てくるキャラクターもものすごく強烈だ。頻繁に笑い続ける正木博士vs若林博士vsあなたの脳の戦いが読了まで続けられる。読んだものは一生忘れられない強烈な一冊となること間違いなしだ。
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