材木商伊勢屋忠兵衛の女房が亡くなった。忠兵衛はこれを機にお文に言い寄るが、お文は
忠兵衛の誘いをはねつける。忠兵衛のお文に対する気持ちが変わったとき、お文の家は
炎上した。表題作「さらば深川」を含む5編を収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ3。
今回も起伏に富んだ読み応えのある話ばかりだった。増蔵の意外な過去が浮き彫りになる
「因果堀」では、男心女心をしみじみと読ませる。「ただ遠い空」では、祝言を間近に控えた
おみつと、おみつの代わりにお文の世話をすることになったおこなの様子を描いている。
どうしようもないけれど、心底憎めないおこなという女性をいきいきと描いているのが印象的だ。
「竹とんぼ、ひらりと飛べ」では、お文の素性が明らかに!お文のとった行動は、はたしてあれで
よかったのか?悔いはないのか?余韻が残る話だった。「護持院ヶ原」は、なんとも不思議な
雰囲気の話だった。このシリーズの話の中では異色とも言える。表題作の「さらば深川」では、
伊三次とお文の関係に変化が・・・。これからの展開が楽しみな話となっている。毎回毎回
登場人物たちに意外なことが起こる。本当に魅力あるシリーズだと思う。
これは「写楽は誰?」という本ではありません。写楽は斎藤十郎兵衛としてそのまま現れます。主役は蔦屋重三郎と山東京伝かなあ。写楽の面白さは「誰?」というミステリーも一つですが、もう一つ蔦屋重三郎が立てた作戦の巧妙さにあると思っています。この本は後者の方を扱った小説です。真実も蔦屋重三郎と斎藤十郎兵衛の2人の話ではなかったと思うのですね。いろんな人が絡んでいたはず。ここの部分は色々と想いが広がって小説にしたいところでしょう。今後は「誰?」路線よりこの部分(蔦屋重三郎が立てた作戦)を取り扱った小説が増えそうです。有名な粋な通人を出せるので楽しいと思います。個人的には斎藤十郎兵衛ももっと粋な人物に仕立ててほしかったですね。それとこの本では大首絵は売れなかったことになってます。デビューの第1期ですね。このところも意見が分かれてます。売れたという論陣を張る人もいます。本当はどうだったのでしょうか? なにせ有名人がそろって出てきますが、名前が当時の呼び名(幾五郎(十返捨一九)、鉄蔵(葛飾北斎)、倉蔵(滝沢馬琴)、伝蔵(山東京伝))なので名簿を手元に作って読んだ方がイメージが膨らんで楽しいです。上記の疑問に対してそれなりに上手くわけが考えられていて、こういう見方も出来るのかと面白く読みました。本の中では写楽の絵が売れなくって仕方がないから破れた襖に張られてるというシーンがあります。今の価値では2000万円以上らしいです。 最後に「寂しい」の意味がなかなか重くていいですよ。それぞれの「寂しい」があって写楽の話は写楽個人の物語でないところが実に楽しいですね。
火曜日に買って帰りの電車から読み始め 木曜日の帰りで読み終えました。
通勤時しか本を読まないのですが 宇江佐真理さんの作品はスイスイと進んで行きます。
短編が6編。古道具屋の夫婦が軸になっています。
近所、親子、兄弟との係わり合いが現代では考えられないようだと思いつつ
日本人の根底にはこんな豊かな心情が隠れているんだろうなぁと 仕事や人付き合いで
付かれた心がホッとさせられるそんな思いで読みました。
各編にでてくる美味しそうなお菜。今度作ってみようかなんて思ったりもしました。
最終編で思わず目に薄涙がにじむ出来事が。
やっぱり人が好きでいられそうです。
医師である父を助けて患者の世話をするお紺は17歳。 呉服屋の手代をしている次兄の流吉が事件に巻き込まれ、 下手人の疑いをかけられたことから首を突っ込み、見事な 推理で兄の窮地を救う。 どうやら、祖父の「斬られ権左」の血が騒ぐのか、それ 以来いろいろ事件が気になって仕方がない。 流吉も手先が器用で、事件後は仕立屋の道を歩き始めた。 仕立屋は「斬られ権左」の本業だった。 そして長兄の助一郎は医師の見習いをしている。 これは父はもちろん、女医であった権左の妻あさみの血を 引いているようだ。
3兄妹がそれぞれ祖父や親の血を引いて、立派に真っ当に、 そして仲良く暮らしてゆく。 今日び、なかなか羨ましい世界かもしれない。
「八丁堀純情派」を名乗った不破龍之進、緑川鉈五郎、春日多聞、西尾佐内、古川喜六、
橋口譲之進。彼らは成長し、後輩もできた。そしてついに、古川喜六が結婚することになった。
嫁になる芳江の父帯刀清右衛門は、かつて上司の不正を暴こうとして失敗し、閑職に追いやられた。
「自分ならどうすべきか?」龍之進の心は揺れる・・・。表題作「我、言挙げす」を含む6編を
収録。髪結い伊三次捕物余話シリーズ8。
今回の作品も読み応えがあった。「粉雪」では凶悪な事件を扱っているが、伊三次と伊与太の
ほほえましい親子関係に救われる思いがする。「委細かまわず」では、直面した問題に正義感の
強い龍之進の苦悩する様が描かれている。小早川も、考えれば哀れだ。「明烏」では、お文の
不思議な体験を描いている。「もしあの時、違う道を選択していたのなら・・・。」お文の心の
動きが、興味深い。「黒い振袖」では、お家騒動に巻きこまれた姫君と龍之進との淡いふれあいが
印象的だ。「雨後の月」では、弥八とおみつ夫婦の関係をしっとりと描いている。人間、生きて
いればいろいろあるものだ・・・。表題作「我、言挙げす」もよかった。おのれの信念を貫くことは
大切だが、それだけではどうすることもできない問題も多々ある。
この作品のラストでは、伊三次一家にまたまた試練が降りかかる。「八丁堀純情派」、そして
「本所無頼派」は、この先どうなっていくのか?ますます楽しみなシリーズだ。
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