この本を読んで実感することは、実に言語が豊饒だということだ。
ちょっとした日常の表現が、越前の方言の魅力とあいまって細密に、甘美とも言える世界を形作っている。
特にはっきりした筋もない作品世界が、むしろ生き生きとしていて読んでて心地よい。
また、伊藤博文暗殺とか皇太子行幸とか、広告といったかつての日本の姿を浮かび上がらせるあれこれがあるのも読みどころだ。
子供の「いじめ」もあったことが分かる。いじめられていた女の子を中学生になって思い出すところも味わい深い。
作品は話者が中学に入って、じょじょに大人になりそうなところで終わるのである。ゆえに子供の文学としても存在感がある。
詩集を初めて買う方にも、そうじゃない方にもお勧めな一冊です。高村光太郎の「レモン哀歌」や中原中也の「汚れちまった悲しみに…」など。皆一度はどこかで読んだ事があるような代表的な詩ばかり。
ちなみに私は石垣りんさんの「くらし」が好き (・_|
いろんな人の詩が入ってるので、新しい詩人との出合いがあるかも。 お勧め!
ストーリーの面白さは、はっきり言って期待しない方がいいです。「歌のわかれ」にも出てきた登場人物が、大学でコミュニズムの運動をする様子が書かれているけど、「どうってことないじゃないか」と言いたくなることが多いです。強烈なインパクトも、意表をつく展開もありません。でも、にもかかわらず、叙述のふしぶしに何か微笑にもにた輝きがあるように思えます。なぜだろう。 それは、作者の生き方と関わっているのかもしれません。一旦はコミュニストになったけど、国家の圧力で転向するしかなかった。そして仲間には理想に殉ずるものもいる中、せこい戦いをするしかなかった。ぶつぶつと現状に対するひそやかな異議申しだてをするしかなかった。そして戦後になったらなったで、「五勺の酒」にも書いたように、まだまだ社会には異議を言うしかない。 そういう艱難辛苦、不条理、せせこましさを自分で抱えつつ、なお色あせない若かりし頃、青春。そういうものを、中野さんは信じたかったのではないか。だから不思議な輝きのある文が書けたのではないか。そう思います。 ちなみに、本作を読んで太宰の「津軽」も少し思い出しました。
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