よかったです。短編オムニバス形式の小説は割と好きで読みますが、その中でもこれはあまり癖がなく、読みやすい作品かと思います。編集が上手いのでしょう。
西村賢太さんや大崎善生さん、筒井康隆さんの短編を目当てにしていたのですが、どの作品も面白く、高橋三千綱さんの『パリの君へ』の溢れる詩的センス、嶽本野ばらさんの『pearl parable』の女性の陰部を真珠貝に見立てるという発想、平野啓一郎さんの『義足』の一貫して淡々とした物語と、その圧倒的な描写力などなど、唸りました。
ネットで試聴して、気になり買ってみましたが、買って良かった。 癒し系だなぁと思っていたら、いろんなジャンルの音楽があってなんだか得した気分になります。 沖縄民謡まで聞けましたし。 曲も一つのドラマが見えてきて、すごく不思議な感じです。 こんなCDがあるなんて、良いですね。
本の帯に描かれた俳優たちの顔ぶれを見て、これは今までとは違う「サロメ」になるだろうな、と思いつつこの本を手に取りました。 今までの「サロメ」と言えば、「ファムファタール」のイメージが圧倒的です。 ところが、ここに写っているのは多部未華子です。 イメージ的には対極にあると思えるような配役です。 訳者は、平野啓一郎です。 読み始めると、何ともプレーンなシナリオです。 派手さがなく、ちょっと物足りなささえ感じてしまいます。 ところが、原文よりも長い解説の数々(平野啓一郎、田中裕介、宮本亜門)を読むと、その理由が書かれていました。 役者の演技を引き出す台詞と台詞の「間」を意識してのことと言うのです。 なるほど良いシナリオとは、そういうものかも知れません。 更に、作品以上に読み応えのある田中氏の「ワイルド論」です。 これを読むだけでも、この本を読んだ価値があるように思います。
他者に対して、誠実であること。 自分に対して、誠実であること。 このふたつは等号で結ばれるのだということを、「分人」という斬新な思考様式でとらえた名著です。 斬新。だけど奇をてらってはいない。 コミュニケーションとアイデンティティの整合性をめぐる著者の分析は、とてもクリアかつ真摯な姿勢に貫かれていて、読んでいて「ああ、この本に書かれていることは信頼できる」と胸を打たれました。 著者がいわんとしていることは、おおまかに言ってしまえば、次のような感じです。
あなたは誰に対しても首尾一貫した態度を取る必要はないし、そもそも取れない。 なぜならあなたがこだわっている「自分」(人格)というものは、他者と向き合ったときに、その相手との関係性によって、その都度、起動し、喚起されるものだから――。 例えば、あなたは会社の上司に対してはいっさい反抗せず、自己主張もほとんどしない。 でも、友人を前にすると途端に饒舌になって、時に激しい議論も辞さない。 さらに、恋人(家族)と一緒にいると、いろいろ甘えたり、無理難題をふっかけてしまう。 どれが本当のあなたなのか? 答えは、「すべて本当のあなた」です。 あなたのなかには、会社の上司と接するときのあなたがいて、友人と接するときのあなたがいて、恋人(家族)と接せするときのあなたがいる。 あなたはあなたの中に、多様な(時に相反する)自分を持っている。 この多様な「自分」を、いわば、多様な心的なレイヤーを、著者は「分人」と呼びます。 あなたは、たくさんの「分人」からできている。 あなたのなかのどの「分人」が表に出てくるかは、いま目の前にいる相手との関係性と環境から、なかば自動的(無意識)に採択される。 その際、表に出てくる「分人」は、あなたが相手に対してもっともスムーズなコミュニケーションがとれるであろう「分人」である。 つまり、わたしたちは、入り組んで複雑な社会を生きるうえで、本能的にさまざまな「分人」を自分の中に育み、バリエーションを増やしている。 となると、逆説的な言い方になるが、あなたがこだわっている「自分」というものに、実はさしたる根拠はない。 「自分」という不動不変のものがあるわけではない。 あるのは、他者との関係性と環境から、その条件ごとに色彩を変える、不透明な「自分」、つまり、多くの「分人」だ。 だから「自分」に一貫性を課すという、そんな息苦しくて、どだい不可能なスタンスには見切りをつけましょう。 そうすれば、個人主義や自己責任とかいう言葉が幅を利かし、閉塞感に包まれた、油断するとすぐ自己否定に走りかねない、そうした世の中を、もっとリラックスして泳げます――。
ダイジェストするとそんな感じでしょうか。 「分人」は著者の造語です。この「分人思想」は決して大げさでなく、著者による偉大な発明だと思います。 上記のダイジェストに関して、いろいろ突っ込みたくなる方もいらっしゃるかも知れませんが、ぜひ本書を読んでみてください。 あなたの頭に浮かんだ、その突っ込みどころも、きちんとフォロー、解説されているはずです。 それくらい本書の内容は緻密ですし、わかりやすく、クリアカットです。 人生の大半を文学に費やしてきた著者にしかなしえない思索の到達点。 今回それがかなりの実用的強度をもってわたしたちに還元されています。 同時代を生きる者として、本書との出会いは非常に貴重なものでした。
シャネルを着こなし、フェンシングの剣をもった林檎さんが素敵で
アルバム「スポーツ」の製作中の林檎さんの姿の描写や
メンバー全員分のインタビューもあり
内容がかなり濃いものになっているので
事変のファンの方なら購入して損はないと思います。
また、林檎さんが描かれた大変可愛らしい絵が掲載されていたのも
個人的にとても嬉しかったです。
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