以前現代語訳を読んだことがあるのですが、物語の筋書きさえよく分かりませんでした。和歌が良く理解できなかったためだと思います。この英訳本には和歌が皆無に近く、和歌の意を伝える手法で、筋書きを主にしている感じを受けました。そのため返って源氏物語が理解できた気がしています。ただ、物語の終わり方が中途半端な感じがしてすっきりしません。読み進めてゆくうちに翻訳者の日本文化への深い造詣が随所に現れていました。単なる言葉を置き換えただけの翻訳ではなく、一語一語に苦労の跡が窺える気がしました。数年後にもう一度読んで見たいと思っています。
源氏が前巻でスタートして、ここからが発展の始まりです。 長い旅路の最初の夜、という気がします。
源氏物語の最新訳です。その書き出しを既存のサイデンステッカー訳、ウェイリー訳と比べてみましょう。
(タイラー訳)
In a certain reign (whose can it have been) someone of no great rank among the Emperor's Consorts and Intimates enjoyed exceptional favor.
(サイデンステッカー訳)
In a certain reign there was a lady not of the first rank whom the emperor loved more than any of the others.
(ウェイリー訳)
At the Court of an Emperor (he lived it matters not when) there was among the many gentlewomen of the Wardrobe and Chamber one, who though she was not of very high rank was favoured far beyond all the rest...
サイデンステッカー訳は、女御も更衣も lady で一括していますが、タイラーは女御を consort と訳し、更衣には intimate の訳語をあてるなど、自由闊達なサイデンステッカーに比べ、逐語的忠実性を重視しています。ウェイリーは源氏物語を世界に紹介した功労者ですが、今となっては文体がいささか古めかしい。その点、タイラー訳は構文が簡単でわかりやすい。本書は abridged 版ですが、逐語的忠実性と読みやすさを兼ね備えた学術的翻訳と言えるでしょう
|