ベテランながらCD自体が少ない上、さらに録音状態のよいものも少なかった中、広告に違わず高品質な録音だった。 ペレーニらしく、穏やかだが軽やかなバッハは自然体な演奏で、当たり前のように耳に寄り添ってくる音が、とても心地よい。 そしてがらりと雰囲気の変わるブリテンでは、不気味さと軽快さを兼ね備えた曲調のツボを、ペレーニの妙技がまさにどんぴしゃで突いてくる。緩急の緩い部分はひたすら音を聴かせ、急ピッチなパッセージではあの正確なボーイングが目に浮かぶ、舞うような弾むような音の氾濫が心を沸き立たせた。ピアノとの対話もばっちり。 ブラームスは、ペレーニのアクのない伸びやかな音がじーんと心に浸透してくる。五臓六腑にしみわたる良質のキリリ系日本酒(熱燗)のような、温度感といい舌触りといい、技ありの味わい。 ライブ録音ならではの、本人による曲紹介のおまけも嬉しい。男性にしては線が細くて、とっても優しい声音は、演奏そのものという印象だ。 きわめつけにアンコール曲のショパンがまた最高。ホールでじかに聴いたら多分帰りたくなくだろう居心地、聴き心地の良さ。昼下がりに転寝してたら、そっとブランケットをかけてくれた的に、マットで柔らかい音がすばらしかった。
休日の朝、食事の時のBGMとして、のんびり、ゆったりとした気分で聴くのに良いですね。 癒されます。
1996年MTV(と言ってもあのMTVではないようだ)ミュージック・プログラムのスタジオにて収録。ミクローシュ・ペレーニはハンガリー出身で1948年生まれ。地元ハンガリーのHUNGAROTONの収録が多く、同じハンガリー出身のアンドラーシュ・シフとの共演が多い。特徴は長いフレーズでも完璧にこなすボウイングだろう。
そのベレーニが48才の時にこのチェリストにとっての聖典を映像とともに残したわけだが、僕には未だ早かったのではなかったか、と思えてしまった。多くの先達が自らの力が充ち満ちたと意識した時にこの聖典は演奏されてきた。それ故余りに素晴らしい演奏がたくさん残されている。例えばロストロポーヴッチの素晴らしい演奏を解説を挟みながら聴いたあとでは、ただたくさんのチェロに囲まれている不思議な映像の中の彼の演奏は、未だ若い、と思える。
この約5年後、アンドラーシュ・シフとベートーヴェンのチェロ・ソナタのアルバムをECMで収録しているのだが、この時とは別人のような演奏になっている。マンフレット・アイヒャーのプロデュースの力も大きいのだろうが、是非そちらも聴いて欲しい。
ここでの演奏は時が満ちていない気がする。時が満ちたときにECMのすばらしいスタッフと共に是非再度録音して欲しい、そう思う。
|