穂坂氏は、日本以外の世界遺産を中心に撮影してきた、世界的に活躍する異色の写真家。若き日々をアメリカで過ごし、日本人としての感性と共に、アングロサクソン的な感性も持ち合わせており、カメラのアングルも他人に例を見ない特殊性があり、素晴らしい。 自分を産んでくれた日本に対する恩返しのつもりもあり、今回初めて、日本の仕事をし、日本の世界遺産を撮ることとなったという。しかも、古代から延々と長い歴史を誇る石見の国にある、石見銀山をテーマとした。 穂坂豊という名も、古代の神々を想わせる、マッチした名であり、これが日本での始めての仕事であるとは・・・、とても偶然とは思えない。 日本人以上に、離れた視線から日本を知る穂坂氏のタッチが新鮮である。 古代出雲との関係、佐毘売(石見銀山内に同名の神社もあるが、出雲・石見国境の三瓶山の古名で、色々隠された歴史があるらしい)、饒速日尊や物部氏、柿本人麻呂、朝鮮半島を先祖の地と称していた大内氏、江戸時代の鴻池財閥を末流に持つ出雲の尼子氏、毛利氏、徳川氏、そして近代産業の遺産等々・・・恐ろしく膨大な歴史の秘密が隠されている地である石見。鉱山・鍛冶・瑞穂の国・北前航路を生み出した海運の伝統・・・日本の伝統精神が凝縮されている。 直ぐに使える観光ガイドブックとしても優れているが、通り一遍でなく、隠された歴史についても余韻が残るような構成となっており、温泉津の温泉宿ででもじっくり読み返してみたい秀作だ。 また、その著作「てんのじ村」で有名な難波利三氏が、温泉津出身だとは知らなかった。精読することにより、色々なことに気づかされるおもしろい本だ。
芥川也寸志がその創設時から現在まで(!)音楽監督を務める新交響楽団による二回の追悼演奏会からの編集によるライヴ盤。同じくフォンテックからは同じオーケストラとの自作自演盤も発売されており交響作品は全ての曲目が重複している。自演盤では作曲家の照れもあるのか、全体的にややあっさりとした印象を持つが、当盤では特に飯守指揮の作品で、よりスケールの大きな演奏が展開されている。一方芥川の重要な創作分野であった映画音楽や一般的には作曲家芥川也寸志の代名詞とも言えるあの大河ドラマのテーマも収録されていることで、芥川の創作を俯瞰できるのもこの音盤の大きな魅力である。自演盤でもこの盤でも新交響楽団は熱演であり、現在でも邦人作品(特に芥川や伊福部)の演奏ではある意味プロの追随を許さぬ存在に育て上げた音楽監督芥川の業績を記念して推薦の☆五つ。
よく見ると私のレビューはいつも、は★1つか、4か5のどちらかが多い。自分の極端な性格を表しているようだ(笑
しかしこの本には★3つつけた。中間の評価だ。その理由をこれから述べる。
まず石見銀山に関する本は少ないように思う。ましてや新書で石見銀山を語った本となると寡聞にして聞かない。そういう意味で待望の本と言っていい。
著者豊田は本書において、石見銀山の繁栄をスペインによるポルトガル併合と結び付ける、新たな視点を提示する。
これが★2つ減らした理由なのだ。豊田はポルトガル・スペイン国家連合をポルトガルの亡国ととらえ、「国を喪ったポルトガル人の悲劇」として描くのだが、史実はどうだったのか? 大航海時代の両国の合同は、両国の主に経済界の要請。つまりお互いの勢力圏への相互進出の利益という理由で、両国民から歓迎されたものではなかったか。
豊田の視点は、いささか強引すぎるというものだろう。
しかしながら、その強引さを認めたうえで・・・、この本はなかなか読ませるのだ。
豊田はもともと作家だ。その作家の才能が、ポルトガル亡国の悲劇という「フィクション」を読ませる物語にしている。これが★3つの理由だ。
豊田の説には賛成できない。しかしこの歴史フィクションはなかなか読ませてくれる。これで★3つとした。
「世界遺産検定」というものができた時から、これは一体何のためにできて、誰が受けるものかと思っていた。この著者は、その検定で世界遺産マイスターを取得している奇特な人である。そんな人が書いたものを読めば、どうしてそんな検定試験ができたのかが理解できるのかと思って読んでみた。
実際に世界遺産とはどういうものなのか、どうしたら世界遺産と認められるのかをよく分かっている人は滅多にいないと思う。少なくとも私は分かっていなかった。本書を読んで、世界遺産に興味を持った。単なる有名な観光地になる早道だと思っていたが、どうやらそうでもないことも分かった。そこには、文化、歴史、文学など深い意味があることに私は共感した。私は言語と文化に大いに興味があるが、世界遺産に少し「のめりこんで」みようかと思ったりもしている。
世界遺産って一体何?と思っている方、是非読んでみるといいと思う。
大きなスーパーができた為に生活が脅かされる個人店主たち。宣伝カーが「高校3年生」を大音量で流し田舎町を走り回る。
そのうち「高校3年生」が流れるだけで個人店主たちに圧迫感が生まれるようになる。
うまい。
物語の中心はそんな個人店のなかの酒屋で展開される。
結婚半年で夫に先立たれた妻(高峰秀子)、義弟(加山雄三)、姑の3人家族に2人の小姑が絡んでくる。
微妙な感情で揺れ動く姑の描き方が秀逸。
しかし何と言っても素晴らしいのがその映像。
日本家屋に入り込む光。もやの中を走り抜ける電車。温泉街に立ち上る水蒸気。
美しい。
そして高峰秀子。
ラスト、温泉街を走る姿をバストサイズでドリー撮影。
湯気で濡れたのか汗で濡れたのか、肌に張り付く髪の毛が妙になまめかしい。
素晴らしい映画でした。
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