川端康成の繊細な心理描写と雪国特有の風土、温泉街、季節などが 画面に織り成し当時の作者の心情が見る側に投影されるかの如き見事な作品
短めの小説(2~10ページ程度)を集めたものなので、まとまった時間が取れないけれど読書がしたい時などには最適だと思います。私の場合は、中学入試の国語の小説問題対策として読んだのがきっかけでした。 収録された小説は100篇以上で、全部で500ページを超えているので、かなり長い間楽しめると思います。 川端康成といえば一般に詩的で繊細といったイメージですが、雪国や伊豆の踊り子とはまた違った趣の作品もあるので、飽きずに読み進めるでしょう。 それでもやはり私が一番お勧めするのは、詩情豊かで繊細な『雨傘』です。たったの3ページであたたかい気持ちと切ない気持ちとを同時に味わうことが出来ます。
現代日本ではもう絶対と言ってよいだろう、ありえないような「初恋」という話なのだ、「伊豆の踊子」っていうのは。 この話は何度も何度も映画にされている話のひとつだが、吉永小百合さん十代の出演作は、多分歴代女優その中でももっともはまり役だっただろうと思う。
十六になる踊子はまだまだ無邪気で幼いが、自らのその人生の宿命的な行き先を時折かいま見せられる。 そのつきまとう影がよけいに現在の初恋の高揚感を輝かせている。 現代では身分による宿命的な関係の絶望感などと言うのは取りあえずない。 それでも多くの人は共感し自らの初恋の記憶をたどることだろう。けして時間の中に永遠を求めることの叶わなかった初恋の記憶を。
旅芸人の一家、そのおさない踊子の短い旅の道中の淡い思い、そして幸福感の美しさははかり知れない。はかり知れないから切ない。切ないから貴い。
安吾の「恋は人生の花だ」というのがとてもうなずける気持ちにさせられる。 思えば、ぼくが踊子や書生と同じ年だったら、悲しくて反逆したくて仕方なかったような話なのだけれど。
言わずと知れた川端康成の名作。なので、ストーリーの素晴らしさについては割愛。最後まで「君、あなた」としか呼べない二人が運命的で悲しい。 縮緬に描かれたようなタイトルバックがとても美しい。原作から受けた駒子の儚くたゆたうような心情を描くには、岩下志麻では少し力強すぎたような気がする。
17歳のとき、この小説を読んでいたら、置屋に勤める母からお前に芸者のことなどわかるかと言われたのだが、日本人の情緒にぴったり寄り添っているこの小説には美しさを通り越して戦慄さえ感じたのだった。 山里の少女が歌う手まり歌。静かに死んでゆく虫たち。雪景色と鉄道。温泉町。そして献身と生活を一身に背負っている女。 確かに僕には男女の愛欲のことなどわからなかったが、日本人の原風景を見せ付けられるようだった。 登場人物の心も、物語りも、背景の自然も、日本でしかありえないようなリアルさを持ちながら、現実と夢幻の狭間に横たわっている。 日本といっても広いから、それこそ雪国でしかありえないリアルさというべきか。僕は越後の隣国の育ちである。 言わせてもらえば、この小説は深いけれど同時にあまりにもあざとい。つまり、美をかもし出すに都合がよすぎる。 物語が唐突に終わるのは、そのあざとさに収拾が付かなくなる手前に来たからではないだろうか。 こういうことを言っていいのかどうかは、文学者ではない私にはわからないが。
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