父と母の不仲を契機に、主人公の少年と妹弟が祖父の住む東北地方のかつての炭鉱の町でひと夏を過ごす。
町で過去にあった忌まわしい少女殺人事件と現在の事件がリンクし、
炭鉱の町に眠っていた記憶が徐々に紐解かれていく。
この作品の秀逸は単なる謎解きミステリーにとどまらず、
東北地方のさびれた炭鉱の町と田舎の夏の風景描写を丁寧に書き上げている点だ。
眼を閉じると、アスファルトの照り返しと草いきれの匂い、熱気の中に立つ廃工場、夕立、夜の田園に響く蛙の音…、夏の風景をありありと作中に感じ取ることができる。
そして思春期の少年の悩みや
長く疎遠だった祖父と孫の距離感、
地元の子たちや妹弟との関係、
14歳の大人でも子供でもない視点。
この時期にしか体験できない夏がどこかS.キングの「スタンド・バイ・ミー」を彷彿とさせる。
「黒死館殺人事件」「ドグラ・マグラ」「匣の中の失楽」と並ぶ。四大アンチミステリの一つ。 凄いなあ、凄いなあ。めくるめく。色彩。反転。溶暗。 探偵小説という枠組みに対して、付かず離れず、弄び、愛しつつ。 四十年くらい前の作品なのに全然古くない。やっぱミステリはいい。
きのこ文学のファンの方はもちろん、広く文学を愛する方にお薦めしたい一冊。
よくぞここまで広くきのこ文学を渉猟し、名作を掬いあげたものである。ジャンルは、小説から詩歌、狂言にまで及び、今昔物語の世界から現代文学までをカバーしている。
中でも私には、萩原朔太郎、加賀乙彦、村田喜代子、八木重吉、北杜夫などの作品が印象深かった。
脳細胞の中に菌糸が繁殖していく感覚を与えてくれる作品群。「きのこ」の中に、人間の内面世界のほの暗く湿潤した部分と通底するものがあることを実感させられる。
更に愕くのは、本書全体がこれでもかといわんばかりに、凝りに凝ったデザインで満たされていることだ。一作ごとに紙質、色が違い、フォントが違い、レイアウトが違う。変幻自在のデザインを楽しむことが、掲載作品それ自身の味わいを倍加させてくれる。
飯沢耕太郎という存在がなければ、こうした本の刊行も現実のものとはならなかったに違いない。ぜひこの味わいを実感してほしい。
『虚無への供物』で名高い中井英夫氏の文庫版全集第三巻は,もう ひとつの大作『とらんぷ譚』全話が収められている。 『とらんぷ譚』は,雑誌「太陽」に連載された,『幻想博物館』『悪 魔の骨牌』『人外境通信』『真珠母の匣』の4つの連作シリーズに,さ らに2作を加え,一冊にまとめたものである。元となった4つのシリー ズは,互いに関連しあい,全体で長大な長編小説として読むこともでき る。 連載当時,『人外境通信』中の一作を読み,子どもだったので, よくわからないながらも,その妖しさに「これは深入りしたらコワイ世 界かも」と感じたのを懐かしく思い出す。
海外でも評価されているという日本の推理小説と聞き、ネット検索して見つけました。迅速に配送されてきました。程度は新品同様で満足満足…
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