主人公の浦野佑一は新聞社に勤める50過ぎの男。不遇をかこつひねくれ者と自認し、ぞんざいな
生き方をしてきた。妻や娘との間にも溝が生じている。自分でも説明のつかない心境の変化で子猫
をもらい、パイと名づけて世話するうちに、生きていくうえでの大切なものについて考えるようになり
変わっていく。

天性の魅力を持ったパイに寄せる思い、外猫たちや浦野自身や周囲の人々のちょっとほろ苦い人生
の断片を積み重ねて、読むものをひきつける。浦野の思索には共感できるものも多い。たとえば、
生き物の中で人間ばかりが偉いといった思い上がりに対する批判など。ただ、パイとの別れに至る
場面での獣医の対応に後味の悪さを感じ、悲しみだけに浸れないのが残念だった。