二の足を踏む人も多いと思うが、なかなか面白い小説なので、買うことをお勧めする。カザンザキスが三十代の時体験した事実を基に書かれたもので、ゾルバという男の含蓄に富んだ言動の数々が印象深い。特に女に対するふるまいが、ゾルバと「私」とでまるっきり違っていて、笑ってしまう。
ギリシャの、とりわけクレタの風俗を知ることができるのも貴重だ。
原題はただの「ギリシア人ゾルバ」。この映画を見て驚いたのは、クレタ島の住民の余所者と仲間内の異端者に対する恐るべき敵意と反感であった。
彼らは外部から訪れた我らが主人公(アラン・ベイツ)が島一番の美女(イレーヌ・パパス)と恋に落ちて一夜を共にしたと知るや、(まるでヨハネ伝第8章に出てくるような光景!)、全員で石を投げつけ、あまつさえ(まるで子羊をほふるように)ナイフで喉を切り殺してしまうのであるが、かつての華やかな古代文明をになった末裔たちがこんな野蛮な振舞いを実際に行っていたのであろうか?
もしもそうならとんでもない話であるし、事実無根ならこの映画の描き方に対してきちんと提訴するべきだろう。
それにしてももしこれが実話で、おのれが愛した美しい未亡人が村人に虐殺される現場に居合わせた物語の主人公が、何もしないで傍観していたならこれこそ天人'に絶対に許されない行為だと思う。
そしてこの哀れな未亡人役を演じるアラン・ベイツとともに比類ない人物造型を示すのは
フランスから村に漂着した元踊り子のリラ・ケロドヴァ、そして表題ゾルバ役のギリシア人を演ずるアンソニークインで、特に後者の人間マグマのごとき不滅の存在感はさながら「最後のネアンデタール人」のようだ。
現世の有象無象を見下して君は最後のネアンデタール人 蝶人
思考の流れがとても短絡的で、なのに情緒を重んじる、というところが面白い。
嫉妬や妬みなどがストレートに行動に出過ぎていて、人間という生物ではない別の生き物のお話のように感じるところが多い。
それを異国情緒というのかもしれないが、なんとなく別次元の物語のようで摩訶不思議。
名シーンと言える数々のシーンも私には全く響きませんでした。
アンソニークインは「道」でもそうでしたが、こういう役が似合いますね。
宿の女主人役は役柄と雰囲気がリアル過ぎて痛々しささえ感じてしまいました。
アカデミー賞受賞も頷けます。