七瀬3部作と称される、七瀬が主人公の第1作が本書です。
人の心が読めるテレパス七瀬が、家政婦として幾つかの家を渡り歩く中でのエピソードを短編形式で数編収録しています。
人の心を読んでしまえるが故に思い知らされる七瀬の、怒り、失望、葛藤、などの描写を通じて、人間の持つ天使の半面(悪い面)が、異様な心理的迫力を伴って描かれています。
プロットも手堅くまとまりがあり、娯楽的要素にも落ち度なく、筒井短編の中では出色の出来だと思います。
本当にステレオ録音なのかと疑いたくなるようなアンサンブルに驚かされます。表現に一貫性・規則性があり、非常に整った演奏です。
単にエディプスコンプレックスの専門的な知識を得るだけではな
く、フロイトを中心として織り成された人間ドラマをうかがい知
ることができる。
精神分析は各創始者の性格が色濃く出てくる特異的な理論である
。だからといってその理論に普遍性がないということはなく、不
思議と色々な事象を説明するのにとても有用となってくる。やは
り精神分析は泥臭い日常や臨床の中から経験的に積み上げられる
ものである。
精神分析のトレーニングに教育分析というものがある。そして、
それは上級分析家が訓練生に対して施行している。上が下に、下
が上となり、そのまた下に教育分析をしていく。その無限連鎖が
今日の精神分析の形となっている。さらに、当時は分析を受けて
いた一般の患者がそのまま精神分析家となることもあった。治療
としての精神分析がそのまま教育分析となっていたのかもしれな
い。
今日では心理療法をはじめ、精神分析などでも近親者や友人知人
に対しては治療を行わないようになっている。教育分析もしかり
。しかし、フロイトの時代はこの原則は明確になっておらず、自
分の子どもを精神分析したりすることもあったようである。フロ
イトは自分の娘を精神分析していた。精神分析という営みを性関
係に例えるとすると近親相姦的であったといえるだろう。
また、フロイトを中心とした集団力動をみると、エディプスコン
プレックス的葛藤が具象化している例が多い。エディプスコンプ
レックスがあるのかないのか、理論的に整備不整備かは別として
、少なくともエディプスコンプレックスが現実の人間関係の中に
息づいていることは確かなようである。
本書は過去の精神分析家の名前を一通り知っており、なおかつ精
神分析の理論がだいたい頭に入っている人が読むとそのフロイト
とその関係者の関係性が見て取れ、大変面白いように思う。全く
の初心者もしくは精神分析をあまり知らない人が読んでも、チン
プンカンプンかもしれない。
実は筒井作品の中でもベスト3位に好きですね、これ。 まぁ、前作二つのようなストレートなエンタテイメントではなく 随分実験的です。彼の他作品と比べると、別にそうでもないけど 七瀬シリーズしか読んでない人はぶったまげるでしょ、これ。 クレバーな小説の料理の仕方の他に、 この作品の個人的なツボは、筒井作品にしては珍しく 主人公が我を忘れて恋してるところですね。あんな落ちがつくけど(笑) これくらい凝った道具立てを持ち出さないと、こういうの書かないんだなぁ~って感じで、嬉しいです。 ちなみに私のベスト3は 1幻想の未来 2エディプスの恋人 3デマ・七瀬ふたたび です。
オイディプス王の悲劇を知っていますか? 私は知らなかったので、まずストーリーに惹き込まれ、王の妻を演じる麻美さんの美しさに目が奪われます。そしてラスト、血を流しもがき苦しむオイディプス王は、まさに「正視に耐えない」この世で一番不幸な男でした。なのに、野村萬斎さん演じる王の姿が目に焼きついてしまいます。知らなければ幸せなのに、知りたい欲求に突き動かされるのが人間のさがなのでしょう。 この不幸な王の物語は、今から2400年ほど前に書かれています。 劇は舞台で見るのが一番でしょうが、DVDでも見ごたえ充分です。
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