解説には「たくましい女の大阪商人の生涯を描いた作品」とあったが、戦前から戦中にかけての当時、男性と並び、それ以上に大きな志をもって商いに臨んだ女性の生きざまが描かれている。 どんな逆境にも屈することなく、「商いとは何か」というある種の哲学のようなものを心の芯に置き、その才覚でまさに破竹の勢いで事業を成功へと導く主人公多加。その逞しさにはすがすがしささえ感じてしまう。けれども同時に、大切な人に全てを受け止めてもらえる幸せやその逆の充足感のようなものを心のどこかで切に求めつつ、そんな気持ちに蓋をして商いに身を捧げる生き方を選んだ多加の、女性としての哀しみのようなものもじんと伝わってくる。 終わり方がまた素晴らしい。一人の女性の人生が、一枚の美しい絵となって心に浮かび上がってくるようだった。さすが山崎豊子だと思った。
「生きて歴史の証人たれ」
秀逸です。
「信念」や「熾烈な戦い」
エンディングテーマのトム・ウェイツの歌も素晴らしい。
国が、政治家らしい人物をそろえていた時代。
新聞記者が、少なくとも記者魂を抱いていた時代。
この本を手にとって、この事件を境にそれらが姿を消したのだと痛感した次第。
大変な事件だった。
機密漏洩という不祥事もさることながら、「情を通じ」という時代がかったことばの生々しさが強く印象に残り、それまでの新聞記者のイメージが失墜した。
そういえば、あれから、この新聞社は祟られたように衰退していったのだった…
山崎豊子はその著書で必ず時代を鋭い感性と冷徹な観察眼で浮き彫りにし、読者にまざまざと見せつけてくる。
昭和40年代に起きた古い事件を描くことによって何が浮かび上がってくるのか。
「新聞だけは批判をされない」といわれた時代の凄腕の記者が遭遇した事件の正体を見極めるために、わくわくしている。
さすが、山崎豊子。腕力がある。面白い。その時代を知っている人は楽しめるはずだ。
それにしても政治家もジャーナリストもケチくさい人物ばかりになったが、互いの傲慢さは年月を越えて変わらないようだ。
それを改めてかみしめながら、届いたばかりの2巻目をこれから読む。
阪神銀行頭取・万俵大介の野望は果てしなく大きい。佐分利信の憎らしいまでの名演技は必見。仲代達矢演じる彼の息子(?)・鉄平は数奇な運命に操られ悲運の人生を歩む。脇役で出ている田宮二郎は、その鉄平を演じることを切望したらしいが叶わず。田宮の78年の自殺法は、状況的見地から…という説が有力だ。
国営のそれからスタートした日航の経営は、まさに、役所体質。
それ故の不条理が描かれています。
脚本に関しては、山崎さんが“ナタで切ったような本にならないか?”と言ったそうです。
でも、人間描写の妙は損なわれてはいないと感じました。
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