雑誌掲載後、単行本化されていなかった中短篇5作を含む8作が収録された文庫オリジナル編集作品。
【収録作品と出典】*が初収録作 ピュタゴラスの旅《「ピュタゴラスの旅」91年講談社刊》 エピクテトス《同上》 *分解《「文學界」97年6月号》 *音神不通《「オール讀物」98年5月号掲載》 *この場所になにが《「オール讀物」98年8月号掲載》 *泥つきのお姫様《「オール讀物」98年10月号掲載》 *ふきつ《「小説すばる」99年3月号掲載》 童貞《「童貞」95年講談社刊》
初収録作のうち、色々な意味で印象に残ったのは「分解」。
この作品は、学者と思しき先生が弟子に講義する形で話が進んでいく。先生の専門は、あらゆるものを分解すること。分解学か?。分解されるのは、銃、人体、人間の意識、そして○○。
講義の方法は実際に分解をするという実技形式なのだが、デビュー作「後宮小説」がそうであったのと同じく、ホラ話があたかも事実であるかのように、もっともらしく語られる酒見賢一らしい作品。人体も分解されるが、オドロオドロシイ描写はなく、学問的?に淡々と分解作業が進んでいくのがかえって怖い。
とにかく70頁のほとんど全てが分解作業の描写に費やされている。特に「意識」を分解していく描写は圧巻。さすが酒見賢一と言いたいのだが、この延々と続く分解の描写がけっこう退屈だった。
最後に分解されようとする○○がオチになっているのだが、たった3頁しかないこのオチが見事。それまでの退屈が吹っ飛んだ。筒井康隆の実験的小説「残像に口紅を」を思い出した。
延々と続く分解の描写をもっとコンパクトにするともっと読みやすくもっといい作品になったように感じた。もしかしたら肩に力が入りすぎていたのかもしれない。
この作品に印象に残る文章があった。ちょっと長いが引用してみる。 〈小説の機能は読む人の人身に働きかけ、ある種の意識異常を引き起こすことにある。意識異常によって出現した世界が、そこが豊かな世界であれ、地獄的な世界であれ、薄汚い世界であれ、薄汚さのない世界であれ、読者を遠い場所へ連れて行く。小説を使って人間を書こうなどという試みは無意味なことだ。小説は不完全な固定か、限りなく完全に近い固定か、その間を揺れ動く意識に過ぎぬ。人間を書くことなど目的ですらない。小説は人を遠くに連れて行くためにあるものだ。〉
これは登場人物の一人が語ったものだが、酒見賢一が自身の小説に対する考えを書いた文章であるのは明らかだ。もしかしたら、このことが言いたいが為にこの作品を書いたのではと思ったりもした。
さらにこの文章は、彼の書く小説の特長が見事に表現された、現在まで書かれ続けた酒見作品全体に対するある種の解説文にもなっている。この文章を読めただけでもこの作品集を手にとってよかったと思う。
昔テレビでやっているの見た。はっきり言ってすっごっくおもしろかった架空の歴史とはいえ中国歴史ものなのでかたくるしいものかと思ったんですけど。いい意味で期待を裏切られました。明るく自由奔放な銀河が恋し、滅び行く国の中で夫のコリューンと愛をはぐくむ姿は今見ても感動ですね。
「雲のように風のように」の原作です。
原作のほうが少しシビアで残酷なところもありますが、アニメよりも原作のほうが銀河やコリュ−ン、その他の登場人物の細かな性格やその時々の感情が伝わってくるかも。
うんちくは多いですが、それゆえに史実だと読者に思わせるぐらい現実性の高いファンタジー小説で、他の著者の作品では味わえない独特な酒見ワールドを感じることができると思います。
ストーリーは『中華風シンデレラストーリー』『ラストエンペラー』『三国志』。
切ないけど、面白いです。
漢字学の権威である著者による「孔子」論。漢字の成り立ち及び中国文化に対する深い造詣を持つ著者ならではの知見溢れる論考である。
第一章「東西南北の人」では、孔子の出自に対する意外な推定、亡命・流浪の旅の繰り返しの苦難の人生、そして陽虎との宿縁等が豊富な史料に基づいて描かれる。孔子に対する様々な論説から虚妄を削り取って行く手腕は鮮やかである。概して、孔子(教団)を"狂簡"と見做している様だ。ソクラテスとの対比や、理想像としての周公及び自身の幻影(分身)としての陽虎という捉え方が興味を惹く。第二章「儒の源流」は、文字通り儒教の成立過程を考察した物だが、同時に"伝統"の本質をも追求している点が瞠目に値する。論語中の言葉としては以下の言辞が「源流」に関わるとする指摘も参考になった。
「述べて作らず。信じて古を好む。ひそかに我が老髪に比す」
初期の儒家の政治・道徳思想が西周の後期において既にほぼ体系付けられていた事が窺えると共に孔子の理想主義的側面の理解の一助となる。"託古改制"との孔子の立場も明瞭にされるが、最高の徳「仁」という語が孔子の発明との論はまさに驚き。第三章「孔子の立場」では、政治的配慮を欠いた反体制者としての孔子の立場が当時(春秋時代)の政治・社会状況を背景に詳細に論じられ、孔子が"礼楽"を重んじた実践の人であった事が強調される。亡命の意義も説かれている。第四章「儒教の批判者」は、孔子との対比で墨子、孟子、荘子、老子、筍子等を論じて、哲学の本質に迫った魅惑的断章。最終章「『論語』について」は前章の分析を踏まえ、「論語」のイデア的性質や孔子・顔回を主とする教団内の人間関係を論じた物。現代のノモス的社会への批判にも繋がっている。
大胆な論が数多く披瀝されている割には筆致が淡々としているのは、長年の研究に裏打ちされた作者の自負の表れだろう。新たな孔子像を打ち立てた秀逸な書だと思う。
確かに別の人も書いているように、1,2部ほど弾けたところがない、というのも事実でしょう。 基本的にはほぼ誰でも知っている通りの赤壁ウォーズが展開されますが、さすがに三国志最大の見せ場では 天下の才人酒見賢一をもってしても、世の三国志常識から大きくはみ出すような冒険は犯せなかった、といったところでしょうか。
それにしてもこのシリーズを毎回読むたびに、雀劇界の巨人片山まさゆき描くところの(同じく)変態孔明が想起されるのは私だけでしょうか? まあもとのテキスト(演義)が同じなので当然といえば当然なのですが、ちょっとしたセリフ回しひとつとっても 「一緒やろ」とついにやけてしまうようなシーンが数多くあります。
今作は片山まさゆきとともに「哭きの竜」という中高年雀劇ファン必須アイテムも登場しますので、SWEET三国志ともども 未読の方はぜひとも併せてwどうぞ。
|