ピアノ曲が大好きだというとき、一般には、スタンウエイやベーゼンドルファあるいはヤマハなどのコンサートピアノを使って、 大演奏家が大曲を演奏したものを聞いて、解釈がいいとか、響きがすばらしいと感じながら楽しんでいるのだと思う。 しかし、この曲は作曲当時どんな響きだったのだろうかとか、この曲の音の連打などいまのピアノでは必要ではないのに と考えながら自分の世界に浸るのも、また別の楽しみ方だと思う。 ピアノの歴史や構造を書いた本は外国にかなりあり、日本にも少しはある。 けれど、内容は充実しているが教科書的知識を与えるだけの無味乾燥なものが多い。 その点、この本は楽器と作曲家の依存関係が書かれていて、物語的面白さも持っている。 また、当時の楽器の特徴と曲の関係が、ピアノ譜で示されている。 読譜能力がなくても、常識的な最低限の楽譜知識があれば、本文の説明で理解ができる。 添付されているCDで古楽器の演奏をきくと、 楽器の改良と並行して次第に技巧的大曲が作曲されていった経緯がわかり、 メカニズムがいかに作曲に影響をあたえているかよくわかる。 楽器の改良と作曲技法の相互作用を知れば、ピアノ曲がもっともっと深く楽しめるのではないだろうか。
現在は滅びてしまっている楽器(例えばアルペジオーネなど)のCDは希少価値があり、二度と手に入らないかもしれないと思ってついつい購入してしまいます。ところが、それらの楽器には滅びたなりの欠点があり、演奏もがっかりする場合がほとんどでした。でもこのCDだけは買って良かったと思います。普通のチェンパロよりも響きが豊かで温かく、和音が分厚く聴かれます(消音装置がついていない楽器なので前に叩いた鍵盤の音も混じってくる)。ラウテンクラビーアはリュートチェンパロとも呼ばれるくらいリュートに音色が似ており、このCDの曲目のいくつかはバッハのリュート曲の編曲になっています(ヴァイオリン曲の編曲も入っています)。同じ曲目をリュート、リュートの親戚のギター、ヴァイオリン、ラウテンクラビーアで聴き比べてみましたが、このCDの音色と和音が一番豊かでお気に入りです。和音が濁らないようにテンポをしばしば変化させる演奏法や演奏者の音楽表現に関しては好き嫌いがあるでしょうから、星4つ。
内容はややまとまりに欠け、ニューグローヴ世界音楽大事典の記述をそのまま引き写したような箇所もいくつか見られます。 しかし刊行から10年以上を経ても未だにこの本が日本語で読めるチェンバロ、クラヴィコード、フォルテピアノ関連の書籍の中で最も充実した物の一つであることは事実です。
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