原田芳雄さんのBirhday liveを切り取った写真集が、没後上梓された。 写真集の中で、芳雄さんが唄って踊って、あの野太くってそれでいてシャイで繊細な声で、ジョーク言ってるのが聞こえてきそうな、そんな本だ。 いい本だ。作った人の愛に満ちている。
それで思い立って、自宅で、カセットテープから『原田芳雄LIVE』(1982)(原盤は2枚組のLPでCD化されていない)をデジタルに変換して聴いている。 その中で、たとえば、 『春は嫌だねしんと寒いよ、誰かいるなら電話をくれよ・・』(『ブルースで死にな』)と芳雄さんは歌っている。
昨日は午前中は土砂降りの雨だった。 その大雨で、あんなにも咲き誇っていた桜は一瞬にして散ったという話だ。
本の最後に、原田家の桜の写真が写っている。 桜の横にはニットキャップをかぶった芳雄さんが座っている。 今年、その桜の横にはもう芳雄さんはいないんだと思った。それがリアル。
いろんなことがあってそれは過去になってゆく。でも過去に埋没させてはいけないこともたくさんある。
桜の花は来年も花を咲かせるだろう。芳雄さんがいなくっても、自分がこの世から消え去っても。
原田さんの音源がいろいろ復刻されて、例えばこの写真集を見ながら、バーボン傍らにして音楽聴いて、それらを肴に桜を愛でることができたら至福だと・・思わないかい?
先祖代々大鹿村に生きる人々の物語。村中の全員が顔なじみで、ハナタレ小僧時代から時間を共有している大人たちが、芝居の中で『止まった時間』の中を生きる楽しさ、悲しさ、そして美しさ。
その村芝居は 300年という時間を内包し、その中に女房と親友が駆け落ちしてひとり村に取り残された男の思いも、戦友をシベリアで失った男の無念も、東京に出て村に戻らぬ恋人を待つ女の気持ちも、そんな彼女に秘かに思いを寄せる男の存在も、一緒くたに交じり合い、溶け合っていく。
基本的には男女三人の三角関係ドラマなんですが、そこに外部の批判的な目として、冨浦智嗣演じる性同一性障害の若者を狂言回し風に紛れ込ませたのがいい。何しろ登場人物全員が顔見知りで旧知の仲とあっては、物語がうまく転がっていかないのだ。そこにまったく部外者で、男や女を超越した中性的な若者を放り込むことで、これが適度に物語をかき混ぜる。貴子が錯乱状態になった時なども、この若者が、ひとり横にいるだけでずいぶんとシーンのあたりが軟らかくなる。
三國連太郎、石橋蓮司、小倉一郎出演者の殆どが主役級の豪華な顔ぶれ。芸達者な俳優陣の良さを見事に引き出し、また俳優陣も役柄を良く心得、活き活きと演じています。佐藤浩市、松たか子、瑛太の若手有名俳優も端役を嬉々として演じているのが伝わってきます。
「ディア・イーター」って鹿料理専門店 ディア・ハンターの連想か ? のネーミングから始まり、原田芳雄と岸部一徳、大楠道代のやりとりなど、女房と駆け落ちした男を何とも優しい親しみを込めた名称で呼ぶ夫。お互い「善ちゃん、治ちゃん」だものなぁ。(苦笑) 腹を抱えての笑いではなくクスクス笑い。安心して観ていられる、まるで男はつらいよシリーズのような安定感がありました。
ただ、エンターテイメントを期待して臨むと肩すかしを食うかもしれません。
男と女の関係をメインに描きながら、押しつけがましくない映像とセリフ。間に挟み込まれる村の風景や人々の描写もとても印象的です。メインである歌舞伎「六千両後日文章重忠の段」(大鹿村歌舞伎のオリジナル演目ってところが凄すぎます)のシーンも、とても面白く解り易くて楽しめました。その背景と内容にもっと詳しかったら、さらに面白かったと思います。
劇中のセリフじゃないですが「仇も敵も是まで是まで」の大団円。なんだか不思議な作品でした。
黒木和雄さんがこの前に撮った「竜馬暗殺」と「祭りの準備」がかなり力の入った映画でしたので、これにも期待したんですが、たとえば熊井啓さんの「日本列島」などをあいまいで薄味にした映画、という印象しか持てませんでした。ということは結局、「竜馬暗殺」は清水邦夫さん、「祭りの準備」は中島丈博さんの力が大きかったのかなあ。
状況と構造はこの時点ですでにハッキリしていたんですから、正攻法でやっていれば、画期的な映画になっていたのかもしれません。いまさらですが、残念です。だいたい、あの場面にしても、守衛さんが神経質になるのは当たり前です。事故でもあったらどうするんですか。「隠ぺい体質」の証明でも何でもないですよ。あの程度のものを「ゲリラ撮影」だと称していたのであれば、「映画」がナメられても仕方がないですね。
1970年代以降の日本映画では、左派勢力の新旧世代交代の中で、社会批判が居場所を失っていった印象があります。それでもここ数年は、「それでもボクはやってない」、「ポチの告白」のように、社会派映画の復権がぼちぼち見られるようになってきました。今後に期待します。
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