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錦之助の代表作は「宮本武蔵」だが、忘れていけない作品が他にもいっぱいある。なかでも股旅ものはどれをとっても映画の神様が宿ったような作品群だ。
 日本映画屈指の大傑作、加藤泰監督との「遊侠一匹」(「瞼の母」もある)、山下耕作監督との「関の弥太っぺ」、
 そして本作、マキノ雅弘監督との「弥太郎笠」(「遠州森の石松」もある)。どれをとっても愛の映画だ。
 そして愛のかたちがひとつとして同じものはなく、どれも切ない。愛とひとくちに語るのがこわいくらいに胸を叩く。
 
 本作「弥太郎笠」は、何度観ても同じ場面で、涙が止まらない。どこでそうなるのか、観てのお楽しみだが、丘さとみが輝きを放つ。男が心底、女を思うほど女を傷つける。女は男を思うほど男を弱虫にさせる。弱虫が傷つけた切なさを命がけの勇気に変える。おかめとひよっとこ、ふたりぼっちの世界が、モノクロ・ワイドの画面に美しい。
 ゲスト出演の東千代之介が適役で支えているのも爽やか。
 
 
   
剣客商売がいちばん好きな時代劇でしたが、それと肩をならべるくらいのできばえだと思います。殺陣も非常にかっこよく、しかも一見弱そうな堺雅人が動くと正に生きた剣豪の趣があった。
 
 
   
時代劇の巨匠伊藤大輔監督の最後の作品となった映画です。
 
 司馬遼太郎『竜馬がゆく』の映画化として
 考えられた企画ですが、伊藤監督はご自身
 の主張が強く入ったので、司馬氏の小説
 を「原案」とする映画、とされました。
 
 初代中村錦之助(初代萬屋錦之介)が坂本
 龍馬を大熱演しています。
 仲代達矢の中岡慎太郎も迫力があります。
 平和国家日本を願う龍馬と慎太郎が激論を
 戦わせ、議題が「天皇制」にまで及ぶクラ
 イマックスにはビックリしました。
 
 1968年NHK大河ドラマ『竜馬がゆく』で西郷
 隆盛を演じた小林桂樹がこの映画でも西郷を
 演じています。
 
 吉永小百合のおりょうが可愛くてカッコいい
 です。
 
 短い出番ですが、渋い存在感を見せる野坂
 昭如も印象的です。
 
 
   
 本作は、江戸大火直後の焼け野原を背景に”社会的責任”を問いかけるチャンバラのない異色時代劇。広島で被爆した田坂監督の作品だけあって、戦災孤児の問題を時代劇に投影したようなストーリーです。
 初めの方では、両親を火事で失った職人気質の大工の若棟梁(中村錦之助)が、家業の再建だけを考えて周囲の人間と軋轢を起こすのですが、幼馴染(江利チエミ)が行き場のない孤児を連れてきたことがきっかけで、自分のするべきことを考え始め、多くの孤児を引き取って読み書きを教えることになる。
 
 いつもの股旅映画では義理と人情の世界に生きる錦之助が、本作では気風の良さはそのままに社会的使命に燃える姿が感動的で、文部省推薦のテロップがないのが不思議なくらい学校教材にもいい映画です。ちなみに棟梁の家は、床の間に日本刀ではなく槍鉋を飾っているのですが、江戸時代の職人の誇りが感じられて嬉しくなりました。
 
 
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