インヴェンションと小プレリュード集を、チェンバロ、クラヴィコード、オルガンで弾き分けている演奏です。
まずクラヴィコードによるインヴェンションの演奏が、すでに貴重です。
オルガンは小型の楽器で、現在主流の電動で風を送るものではなく、ふいごを踏んで風を送る音が聞こえ、大オルガンにはない響きの楽器です。
シンフォニア5番は、チェンバロのリュート・ストップを用い、左手だけこもった響きにして、リュートの伴奏と二重奏のような響きを再現しているのも、新鮮です。
解説に、どの曲がどの楽器による演奏か記されていないのが残念です。
参考までに以下に一覧を記します(BWV番号はプレリュード)
チェンバロ: 2声 2,4,6,10,13, 3声 1,2,3,5,6,7,10,13,15, BWV924,931,934,936,937,940,941,942
クラヴィコード: 2声 3,7,9,11,14, 3声 9,14, BWV925,930,932
オルガン : 2声 1,5,8,12,15, 3声 4,8,11,12, BWV926,927,928,929,939
なおバッハがインヴェンションを、クラヴィコードのために書いたという説は、今日では疑問視されているようです。
当時の「クラヴィーア」はオルガンを含む、鍵盤楽器全般を指していたと考えられ、特定の楽器を想定したものではないようです。
この演奏ではチェンバロ、クラヴィコード、ピアノでは演奏できない長大な音符がある曲は、オルガンで演奏されており、本来のポリフォニーの響きが聴き取れます。
もっと知られてもいい、知られざる名盤です。
一曲目出だしから鳥肌立ちました。バロック時代を追従した器楽編成だが決してカビ臭く無くタイトル通り”未来形”の前に突き進むサウンドはクオリティー高く、途中で曲をスキップすることなく一気に聴けてしまいます。ホールでの録音らしく各楽器の奥側で聞こえるかすかな残響時間も絶妙でライブ感があり、且つ音の粒立ちを邪魔することなく演奏者と技術スタッフとの一体感が見える気がします。 また、単にバロック音楽を解っていらっしゃる武久源造氏が解っているメンバーを集めただけに留まらず、ヴァイオリン、チェロ、チェンバロなどの合間を繋ぐバロック・ヴィオラを演奏する大学4年生(当時)で若手の田中千尋を起用するなど、演奏者にも未来を見据えたオーケストラ構成には感心した。若い人達にも十分聴き応えあるアルバムになっていると考えます。
ヨハン・セバスチャン・バッハの生きていた、 当時のフォルテピアノによる演奏です。
このCDを聴くと、果たして現代の頑丈なグランド・ピアノが 前時代の貧弱なフォルテ・ピアノの欠点を改良して発展してきた という通説が、ただしいものだったのか?と思わず考えさせられて しまいます。
出てくる音は「予想通り」でもあり、「予想以上」でもあり、大変興味深い ものです。 まだチェンバロみたいな、ちょっと金属的な音がしますが、聴く前に想像していたよりは、 ピアノ的な表現が出来、案外力強い、ドラマティックな表情も出せます。 チェンバロやオルガンではレバーや、多重鍵盤などによる『切り替え』でしか 多彩な表現が出来なかったことを考えると、ちょっとした指先のタッチの 仕方で強弱や表情の変化を付けられる新しいピアノがいかに画期的なもの だったか、なのに大バッハはこの後すぐに亡くなってしまい、ほとんど この楽器による音楽を残せなかったことなど、歴史の皮肉を感じさせられますね。 そんな、歴史的価値を抜きにしても、音色が非常に典雅な感じで BGM的にも、リラックスできる良いCDだと思います。
参考までに指先で強弱の付けられるもう一つの鍵盤楽器、 クラヴィコードによる名演CDも紹介しておきます。 レオンハルト/クラヴィコード・リサイタル
4月2日、松本記念音楽迎賓館で、武久源造が弾いた「ラ・ミ・レの上で」という曲が気に入って、ぜひもう一度聴きたいという思いから、このCDを買った。 「ラ・ミ・レの上で」は、作曲者不明。バロック音楽の常識から見たら、全く型破り、自由奔放で面白く、どことなく東洋的な旋律で、盆踊りのような節まわしも現れるが、バロック的な美しさも加わっている。 松本記念音楽迎賓館で、親しい友人、知人に囲まれて演奏したものと比べると、CDに収録されている演奏はちょっと固い感じがする。 CDには13曲が収められており「ラ・ミ・レの上で」以外では、バッハのトリオソナタBWV853が面白い。 録音は非常に良く、古楽器の音の美しさを完璧に伝えている。
日本におけるチェンバロ製作の第一人者久保田彰によるチェンバロ解説のDVDBOOK。チェンバロの構造やメンテナンスなど、詳細は『図解チェンバロメンテナンス―チェンバリストと技術者のために』に詳しい。本書はカラー写真をふんだんに使って、目でも楽しめる本に仕上がっている。DVDではチェンバリストの曽根麻矢子、水永牧子が様々なチェンバロやヴァージナルを演奏して聞かせてくれる。しかし何と言っても圧巻は武久源造による即興演奏。前奏曲とフーガと思われる。フーガに入り、多声を緻密な構造で作り上げ、そして解決に導いていく腕の冴えは驚嘆的だ。自身としても会心の出来だったのであろう。演奏しながら笑みがこぼれている。武久という音楽家がこれほどの実力を持った人であったのか!と初めて知らされた。古楽はもはや珍しくも特別のものでもなくなったが、まだチェンバロに馴染みがなく、聞いてみたいと思っている人にお勧めしたい、と同時に、今までチェンバロ演奏を見たことのなかった愛好家にも是非お勧めしたい。
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